研究 (Research)

最終更新日:

骨髄における造血幹細胞と造血、骨代謝の司令塔細胞(CAR細胞)に関する研究 (Niche cells essential for hematopoietic stem cell maintenance, hematopoiesis, and adipo-osteogenesis in bone marrow)

栄誉教授 長澤 丘司、准教授 尾松 芳樹(生命機能研究科/医学系研究科/免疫学フロンティア研究センター) NAGASAWA Takashi , OMATSU Yoshiki (Graduate School of Frontier Biosciences/Graduate School of Medicine/Immunology Frontier Research Center)

  • 医歯薬生命系 (Medical, Dental, Pharmaceutical and Life Sciences)
  • 医学系研究科・医学部(医学専攻) (Graduate School of Medicine, Faculty of Medicine (Division of Medicine))
  • 生命機能研究科 (Graduate School of Frontier Biosciences)
  • 全学・学際など (University-wide, Interdisciplinary, etc.)
  • 免疫学フロンティア研究センター (Immunology Frontier Research Center)

English Information

研究の概要

ほぼ全ての血液細胞の起源となる造血幹細胞は、骨髄でニッチ細胞と呼ばれる支持細胞が構成する微小環境によって維持されていますが、その実体は近年まで不明でした。私たちは、骨髄特有の間葉系幹細胞であるCAR 細胞が、造血幹細胞のニッチ細胞で、造血幹細胞や造血の維持に必須のサイトカイン(CXCL12、SCF)、造血幹細胞ニッチの形成と維持に必須の転写因子(Foxc1、Ebf1、Ebf3、Runx1、Runx2) を特異的に高発現することを見出しました。
これらはマウスの解析で得られた知見ですが、最近、ヒトの骨髄の非血液、非血管内皮細胞の主たる構成細胞がCAR 細胞の特性を持っていることを明らかにし、CAR 細胞は、ヒトでも造血幹細胞や造血を維持する支持細胞であることが強く示唆されました。

研究の背景と結果

免疫担当細胞を含む血液細胞の大部分は、骨髄で産生され、その細胞数は感染症や炎症など、必要に応じて調節されています。また、白血病や骨髄腫は、骨髄で発生、進展します。この骨髄の特別な機能を支える微小環境の実体は、近年まで不明でした。大部分の血液細胞は寿命が短いですが、これを生涯にわたり産生し続ける造血幹細胞は、細胞数が少なく、ニッチと呼ばれる微小環境によって維持されています。私たちは、造血幹細胞ニッチを構成する中心的な細胞が CAR 細胞であること、CAR 細胞は B 細胞、NK 細胞、pDC の産生にも必須で、骨を造る骨芽細胞と脂肪を貯蔵する脂肪細胞を供給する間葉系幹細胞であることを明らかにしました。さらに、CAR 細胞は、造血幹細胞の維持に必須のサイトカイン(CXCL12、SCF)、造血幹細胞ニッチの形成と維持に必須の転写因子 Foxc1とEbf1/3(HSC ニッチ因子)を特異的に発現し、それぞれ CAR 細胞の脂肪細胞と骨芽細胞への分化を抑制することを見出しました。
さらに、最近、転写因子 Runx1と Runx2が CAR 細胞で高発現し、その線維化を抑制し、造血幹細胞ニッチを維持していることを明らかにしました。これらは、マウスの解析で得られた知見ですが、今回、ヒトの骨髄において、血管内皮細胞を除く非血液細胞の大部分は、CAR 細胞の特性を持つことが明らかになりました。ヒトの骨髄をフローサイトメトリーで解析したところ、非血管内皮細胞、非血液細胞の大部分は、CXCL12を著しく高発現し、この細胞は、レプチン受容体(LepR)を発現し、骨髄穿刺標本から、LepR+ 細胞として分離できました。関節の間葉系幹・前駆細胞や骨芽細胞、血管内皮細胞と比較すると、LepR+ 細胞は、マウスの CAR 細胞の特性を持つ、すなわちCXCL12、SCF、Foxc1、Ebf1/3 mRNA を特異的に高発現し、骨芽細胞と脂肪細胞への分化能を持つ細胞を含んでいました。ヒトの骨髄の組織学的解析では、CAR 細胞は、マウスと同様に長い細胞突起を持つ Ebf3陽性細胞として同定されました。
また、慢性骨髄性白血病患者では、CAR細胞のCXCL12、SCF、Foxc1、Ebf1/3 mRNAは治療前に低下しており、治療により改善することが明らかになりました。これらの結果より、CAR細胞は、ヒトでも骨髄で造血を維持する司令塔細胞であることが示唆され、薬剤の標的となり得る他、骨髄穿刺標本や、骨髄の切片を用いて、造血ニッチに関連する疾患の診断や解析が可能であることが示されました。

CAR 細胞は、造血幹細胞の維持に必須のサイトカイン (CXCL12、SCF)、造血
幹細胞ニッチの形成と維持に必須の転写因子 Foxc1と Ebf1/3を特異的に発現
し、CAR 細胞の脂肪細胞と骨芽細胞への分化を抑制します。転写因子 Runx1と
Runx2は CAR 細胞の線維化を抑制し、造血幹細胞ニッチを維持しています。
ヒト骨髄でも非血管内皮細胞、非血液細胞の大部分は CAR 細胞で、レプチン受容体
(LepR) を特異的に発現します。(Aoki et al., Br. J. Haematol. 2021 より抜粋)
ヒトの骨髄の組織学的解析で、CAR 細胞は、長い細胞突起を持つ Ebf3陽性細胞
として観察できます。(Aoki et al., Br. J. Haematol. 2021 より抜粋)

研究の意義と将来展望

CAR 細胞は、造血幹細胞や造血の維持に必須である他、形質細胞などの免疫記憶細胞、白血病幹細胞の維持や骨転移した癌細胞の維持にも関与する可能性がある重要な細胞です。したがって、その機能の制御分子は、白血病やがんの治療、ワクチンの有効性の亢進など、様々な医療における薬剤標的となる可能性があります。

担当研究者

栄誉教授 長澤 丘司、准教授 尾松 芳樹(生命機能研究科/医学系研究科/免疫学フロンティア研究センター)

キーワード

造血幹細胞/ニッチ/骨髄

応用分野

医療・ヘルスケア/創薬

参考URL

https://researchmap.jp/read0094728
https://researchmap.jp/yskomt

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2024(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。