研究 (Research)
最終更新日:
iPS細胞由来軟骨を用いた再生治療法の開発 (Development of regenerative therapies using iPS cell-derived cartilage )
助教 阿部 健吾、特任助教(常勤) 島 伸行、教授 妻木 範行(医学系研究科 生化学・分子生物学講座(組織生化学)) ABE Kengo , SHIMA Nobuyuki , TSUMAKI Noriyuki (Graduate School of Medicine)
研究の概要
関節軟骨は自己修復能に乏しく、損傷すると自然に治癒しないため再生治療が期待されている。iPS細胞から作製した軟骨(iPS-Cart)は、関節軟骨損傷を治療するための同種軟骨移植の有望なリソースと考えられるが、同種軟骨移植における免疫反応については不詳であった。
そこで、サル膝関節軟骨欠損モデルに同種 iPS-Cart を移植したところ、移植群は硝子軟骨で修復され、免疫反応を起こさず、正常関節軟骨に近似した遺伝子発現プロファイルを示した。また、移植後の iPS-Cart表層には潤滑機能を担う PRG4の発現が誘導され、関節軟骨として機能していることがわかった。iPS-Cart の軟骨疾患以外への適応についても検討した結果、免疫不全ラットの椎間板変性モデルにヒト iPS-Cart を移植すると椎間板の変性が抑制され、免疫不全マウスの大腿骨重症骨欠損モデルへの移植により骨形成を認めた。
研究の背景と結果
関節軟骨は損傷を放置すると周囲軟骨に変性を引き起こし、しばしば変形性関節症に至る。軟骨損傷に対する既存の細胞治療は、移植細胞が一過性に産生する因子がホスト組織を活性化することで修復が起きるとされており、その修復力も限定的である。そこで我々は、iPS 細胞から作製した軟骨(iPS-Cart)を損傷組織に移植することにより、移植物自身が修復組織を構成する根治的な再生治療の実現を目指している。軟骨は無血管であり軟骨細胞は豊富な細胞外基質に囲まれているため、免疫細胞が軟骨細胞に接触できず免疫特権を有すると考えられているが、その詳細な機序は不明であった。
そこで、サル膝関節軟骨欠損モデルに同種 iPS-Cart を移植したところ、移植群は硝子軟骨で修復され、ホスト軟骨との癒合を認め、免疫反応を起こさなかった。また、iPS-Cart 表層における PRG4発現の誘導により潤滑能を獲得し、少なくとも4カ月間は関節軟骨として機能していた。一方、移植しなかった群は機能性が劣る線維軟骨組織で修復された。シングルセルRNAシーケンス(scRNA-seq)解析の結果、iPS-Cart は移植後さらに軟骨様に分化し、正常関節軟骨に近似した遺伝子発現プロファイルを示した。椎間板髄核の変性は腰痛の原因となっており椎間板再生治療が期待されている。椎間板髄核と軟骨を scRNA-seq で解析した結果、両者の遺伝子発現プロファイルは極めて類似していた。
そこで、ヌードラットの尾椎椎間板変性モデルにiPS-Cartを移植したところ、移植しなかった群では椎間板が変性したが、移植群では椎間板の変性が抑制された。解放骨折や骨腫瘍の手術治療後には大きな骨欠損が生じ、難治性となる。iPS-Cart は胎児期の軟骨原基に相当する性質を持つ。そこで、スキッドマウスの大腿骨骨欠損モデルに iPS-Cart を移植したところ内軟骨性骨化を誘導し、骨欠損部に骨形成を認めた。
研究の意義と将来展望
iPS-Cart の移植が、軟骨損傷、椎間板変性、難治性骨欠損の再生治療に応用できる可能性が示唆された。現在、関節軟骨損傷患者を対象に、同種 iPS-Cart を軟骨損傷部に移植する臨床研究を進めており、ヒト proof of conceptの取得により、iPS-Cart の社会実装への道筋も具現化することが期待される。
担当研究者
助教 阿部 健吾、特任助教(常勤) 島 伸行、教授 妻木 範行(医学系研究科 生化学・分子生物学講座(組織生化学))
キーワード
関節軟骨損傷/同種移植/椎間板変性/骨欠損/iPS細胞
応用分野
再生医療/エイジレス・ライフ
参考URL
https://tissuebiochemistry.wixsite.com/website
https://researchmap.jp/kabe1109
https://researchmap.jp/maychan
https://researchmap.jp/cart