研究 (Research)
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歯周病の糖尿病に対する経腸管的な糖代謝増悪および糖新生亢進機構の解明 (Elucidation of the enteric metabolic exacerbation of periodontal disease in diabetes and the mechanism of enhanced gluconeogenesis )
特任教授 村上 伸也、助教 柏木 陽一郎(歯学研究科 口腔治療学講座) MURAKAMI Shinya , KASHIWAGI Yoichiro (Graduate School of Dentistry)
研究の概要
う蝕(むし歯)や歯周病に代表される口腔環境の悪化と全身状態との関係を繋ぐ分子メカニズムについては、幾つかの仮説が提唱されているが、その因果関係は十分に解明されていない。
本研究グループは、「口腔細菌叢のディスバイオシスが腸内細菌叢のディスバイオシスを惹起し、全身状態を悪化させる」という作業仮説のもと、糖尿病マウス (db/db)に 歯周病菌のPorphyromonas gingivalis(Pg)を1ヶ月間経口投与する実験的歯周炎モデルを駆使し、同実験マウスより採取した肝臓および糞便サンプルに対して、メタプロテオーム・メタボローム解析を実施した。その結果、口腔環境悪化に起因する腸内細菌叢変化と腸内代謝物の変動が、経門脈的に肝臓での糖新生の亢進を誘導し、糖尿病の病態を悪化させるメカニズムを明らかにした。
研究の背景と結果
歯周病に代表される口腔環境の悪化が様々な全身疾患と密接につながっていることを示唆する報告が多数なされている。しかし、口腔環境悪化と全身状態との関係を繋ぐ分子メカニズムについては、歯を支える歯周組織からの細菌感染による菌血症や、炎症状態にある歯周組織において慢性的に産生される TNF- α等の炎症性サイトカインが血流循環するという仮説が提唱されている。一方、腸内環境の悪化が全身疾患に影響するという研究成果が多数報告されてきた。そこで、口腔内細菌が食物や唾液と共に嚥下されることにより、腸内環境の変動(腸内細菌叢の dysbiosis)が誘導され、その結果として全身に変調を引き起こすという作業仮説が提案され、その結果、口腔内細菌と大腸がん、NAFLD、肝臓がん等との関連を示唆する報告がなされてきた。
我々の研究グループでは、歯周病と糖尿病との連関に焦点を当て、その分子メカニズムを解明すべく研究を行ってきた。その結果、糖尿病マウス(db/db)に対し、代表的な歯周病菌であるPgを経口腔的に長期間投与することで、歯を支持する歯槽骨の破壊と経時的な高血糖の増悪を見出した。
さらに、同マウスの糞便のメタプロテオーム解析により、Pgの経口投与により腸内細菌叢が変動することを明らかにした(図1)。同マウスの肝臓を対象としたプロテオーム・メタボローム両解析を行った結果、Pg投与群の肝臓におけるグリコーゲン量の減少と糖代謝の中間代謝物の増加、およびクエン酸回路に関する酵素の減少と糖新生関連酵素 PCK1の増加が認められた。さらに、生化学的および組織学的解析において、同マウス肝臓において、糖新生関連分子である PCK1とその転写因子である FOXO1の発現が亢進していることを明らかにした(図2)。
これらのことはグリコーゲン分解の亢進とミトコンドリア内のエネルギー代謝の低下を示唆しており、Pgの口腔からの嚥下により経腸管的に肝臓内における糖新生の亢進が惹起されていることが裏付けられた。
研究の意義と将来展望
本研究により、歯周病の発症・進行により変化した口腔内環境の悪化が腸内の細菌に及ぼす影響を包括的に解析することで、歯周病が全身の健康に悪影響を及ぼすメカニズムの一端が明らかになった。このようなメカニズム解明が進むことにより、全世界で最も患者が多い感染症といわれる歯周病の病因・病態に関する理解が向上するのみならず、口腔環境悪化に依存する生活習慣病増悪に対する新たな診断法および治療方法の開発にも繋がるものと期待される。
担当研究者
特任教授 村上 伸也、助教 柏木 陽一郎(歯学研究科 口腔治療学講座)
キーワード
歯周病/腸内細菌叢/糖尿病/糖代謝異常/口-腸連関
応用分野
医療・ヘルスケア/創薬
参考URL
https://researchmap.jp/Shinya_Murakami
https://researchmap.jp/_yoichirok