研究 (Research)
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鋼構造物のデジタルツインによる寿命延伸技術の高度化:地震動を含む各種荷重に伴う繰返し弾塑性変形挙動と疲労損傷過程の高精度な予測技術 (Advanced technology for extending the service life of structures using digital twins)
准教授 堤 成一郎(工学研究科 地球総合工学専攻) TSUTSUMI Seiichiro (Graduate School of Engineering)
研究の概要
我々の周囲にある大小様々な機械・装置・構造物に生じる損傷の80%近くは、力や変形が繰返し作用した結果として生じる “ 疲労 ” に起因するとされています。この各種材料からなる構造体が損傷するまでの過程を事前に、かつ正確に評価・予測できる手法を確立し、疲労損傷およびそれに伴う事故を未然に防止することは、豊かで安全かつ持続的な社会活動を営む上で、また各種産業分野において国際競争力を高める上で極めて重要な課題です。
この疲労損傷過程は、疲労亀裂の発生過程とその後の進展過程に分けて議論され、塑性論や破壊力学など複数の理論体系に跨る多くの予測モデルが提案されていました。我々は、各種材料からなる構造体の変形・応力状態を高精度・高効率に予測可能な数値シミュレーション(デジタルツイン)技術を開発するとともに、疲労亀裂発生から進展・破断までを統一して評価できる疲労性能評価手法を提案しています。
研究の背景と結果
各種大型溶接構造物において、溶接部を起点とする疲労損傷事例が多数報告されており、様々な寿命延伸技術やその評価に必要な余寿命診断技術の開発が進められています。この疲労損傷の主な要因として、a)溶接部と構造的な不連続部が一致する、かつ溶接余盛や時に欠陥も存在するために高応力となる、b)溶接入熱による母材と溶接金属の希釈およびその後の冷却速度など、溶接プロセス条件に依存して不均一な材料組織 / 形状 / 強度分布や残留応力 / 残留変形が生じる、さらに c)大型溶接構造物が実際に経験する応力や変形状態は、多軸 / 非比例 / 変動履歴となるため、実験的検討には限界があることなどが挙げられます。つまり、接合条件に依存する溶接構造物の疲労性能評価手法および寿命延伸技術の高度化を実現するためには、上記 a)から c)の影響因子を適切に考慮可能な数値シミュレーション技術開発と実設計および施工への展開(デジタルツイン)が死活的に重要であり、これらの解決に不可欠な工学的にインパクトの高い技術の開発を目的とした研究を行っています。
研究の意義と将来展望
我々が開発を進めている構造物の変形・疲労破壊現象を対象としたデジタルツイン・数値シミュレーション技術を活用することにより、例えば、老朽化が進む既存の各種インフラ鋼構造物に対しては、合理的な補修・補強計画の立案、また新設の構造物に対しては、維持コストを低減可能な強靭な構造や新材料の提案、さらに新たな長寿命化技術の開発など、多くの社会課題の解決に繋がると考えています。
担当研究者
准教授 堤 成一郎(工学研究科 地球総合工学専攻)
キーワード
繰返し塑性/材料モデル/有限要素法/疲労/亀裂発生進展
応用分野
デジタルツイン/CAEデザイン/鋼構造物/疲労寿命延伸
参考URL
https://scholar.google.co.jp/citations?hl=ja&user=Au48XfYAAAAJ
https://researchmap.jp/tsutsumi