研究 (Research)

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パーフルオロアルキル化合物の脱フッ素水素化反応の開発 (Development of the Hydrodefluorination reaction of perfluoroalkyl substances )

助教 土井 良平(工学研究科 応用化学専攻) DOI Ryohei (Graduate School of Engineering)

  • 理工情報系 (Science, Engineering and Information Sciences)
  • 工学研究科・工学部 (Graduate School of Engineering, School of Engineering)

English Information

研究の概要

パーフルオロアルキル化合物とは、CF2骨格を複数有する有機フッ素化合物である(図1)。その高い熱的・化学的安定性に起因して、環境汚染物質として近年認識されている。PFOS、PFOA などはニュースでも連日取り沙汰されている。本研究では、パーフルオロアルキル化合物の脱フッ素水素化反応の開発に着手した(図2)。具体的にはパーフルオロアルキルアレーンに対して、ニッケル触媒存在下、ヒドロシランを作用させることで、炭素―フッ素結合がすべて炭素―水素結合に変換されることを見出した。詳細な反応機構解析の結果、本反応はフルオロアルケンを鍵中間体として含む多段階反応であり、その中でニッケル触媒は複数のステップを促進していることが明らかとなった。

研究の背景と結果

近年、パーフルオロアルキル化合物(PFAS)による環境汚染が深刻化している。PFAS は高い化学安定性をはじめとする様々な特徴から産業界にて重宝されている。その一方で、環境に流出すると分解されずに長期的に影響を及ぼす環境汚染物質と化す。パーフルオロアルキル化合物の有効な分解方法は未だに開発が続いている状況である。
我々の研究グループは、脱フッ素水素化反応に着目した。この反応は有機フッ素化合物のフッ素を水素に置換する反応であり、パーフルオロアルキル化合物を無害な炭化水素へと変換できる。これまでトリフルオロメチル基(CF3)の脱フッ素水素化反応には多数報告例があったが、より長いパーフルオロアルキル鎖の脱フッ素水素化はほとんど前例がなかった。
ニッケル触媒とリン酸カリウム(塩基)存在下、1- ペンタフルオロエチルナフタレンとヒドロシランを反応させたところ、60度と比較的低温にて反応が進行し、1- エチルナフタレンが86% の収率にて得られた。この反応の進行には、ニッケル源となる Ni(cod)2(cod=1,5- シクロオクタジエン)に加えて、ICy と呼ばれるカルベン配位子の添加が必須であった。これらは反応系内にて錯形成して Ni/ICy 触媒を形成しているものと考えられる。より長鎖の1- ヘプタフルオロプロピルおよび1- ノナフルオロブチルナフタレンの反応を検討したところ、いずれの場合もより高温条件が必要ではあったものの、対応するアルカンが少量ながら生成することを確認した。副生するフルオロシランを定量することで、おおよそ半分程度のフッ素が引き抜かれたことが明らかになった。1- ペンタフルオロエチルナフタレンの反応の詳細な反応機構解析の結果、この反応は①ベンジル位の脱フッ素水素化、②塩基による HF の脱離、③フルオロアルケンの脱フッ素水素化、④ビニルナフタレンのヒドロシリル化と⑤プロトン化によって進行しており、ニッケルはこのうち最後のプロトン化以外の①~④すべてのプロセスを触媒していることが明らかとなった。

研究の意義と将来展望

今回見出した脱フッ素水素化反応は、パーフルオロアルキル化合物を炭化水素に変換する。炭化水素は容易に焼却処分可能であり、また生体内で代謝されるため、パーフルオロアルキル化合物と比較して環境への影響は著しく低下すると考えられる。今回の反応は特殊なパーフルオロアルキルベンゼン誘導体にしか適用できないが、今後適用範囲の拡大およびヒドロシランよりも安価な水素源を用いた反応を開発することで、環境汚染物質パーフルオロアルキル化合物の有効な処分方法への発展を目指す。

担当研究者

助教 土井 良平(工学研究科 応用化学専攻)

キーワード

フッ素化学/ニッケル/PFAS

応用分野

汚染物質の分解/PFASの分解

参考URL

http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/~ogoshi-lab/index.html
https://researchmap.jp/ryoheidoi

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2024(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。