研究

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発光性分子の重原子空間への閉じ込めによる効率的かつ簡便な室温りん光誘導 (Efficient and facile induction of room-temperature phosphorescence by confinement of luminescent molecules in heavy atom spaces)

教授 藤内 謙光(工学研究科 応用化学専攻) TOHNAI Norimitsu (Graduate School of Engineering)

  • 理工情報系
  • 工学研究科・工学部

English Information

研究の概要

有機分子のみを用いた室温りん光の発現には、複雑な分子設計と特異的な分子間相互作用の制御が必要であるため、これまで室温りん光材料の開発は特定の物質群に限られてきた。我々の研究グループでは、多孔質材料の空孔表面に臭素やヨウ素といった重原子を配置した重原子空間を創出し、その中に一般的な発光性分子を閉じ込めることで極めて効率的かつ簡便に室温りん光を発生させるシステムの構築に成功した。これらの多孔質材料には様々な発光性分子を閉じ込めることができ、用途に応じて室温りん光の色調や寿命などの特性を自在に変換すること可能となる。

研究の背景と結果

我々の研究グループでは様々な有機スルホン酸化合物と嵩高いアミン化合物から多種多様な多孔質有機塩(Porous Organic Salts:POSs)を構築できることを報告してきた。これらは酸性成分と塩基性成分の組み合わせにより様々な大きさや形、表面特性をもった多孔質材料を設計することができる。これにより、二酸化炭素やフロンガスの選択的な吸着分離、水素やメタンなどの燃料ガス吸蔵物質の開発、また有害物質などの特定の化学物質に対する超高感度のセンシングデバイスへの応用に大きな期待が持たれている。そのような研究を進める中で、多孔質材料の空孔表面を自在に化学修飾することのできる手法を確立した。
アダマンタンコアを有するテトラスルホン酸と、フェニル基のパラ位に臭素やヨウ素といった重原子を導入したトリフェニルメチルアミン(TPMA-X)を用いて多孔質構造を設計すると、直径が2ナノに及ぶ大きなケージ状の空孔を持つソーダライト型多孔質有機塩(s-POS)を構築することができた。この空孔表面には TPMA-X に導入した臭素やヨウ素が露出しており、重原子に取り囲まれた空間が創出されている。この空孔内に発光性の多環式芳香族化合物(ピレン、コロネン等)を閉じ込めると、極めて効率的に室温りん光を発現させることが可能となった。この重原子空間は、重原子効果により励起一重項状態にある分子を励起三重項状態へと効率的に変換させる大きなスピンー軌道相互作用を有しており、りん光発光に必要な励起三重項状態を容易に作り出すことができる。また制限された空孔内に発光性分子を閉じ込めることで熱による励起子の振動失活を抑制することが可能となる。さらに、このソーダライト型多孔質有機塩は二酸化炭素のみを選択的に吸着し、酸素を全く吸着しないことから、一重項酸素による消光を抑制することができる。
以上のように、我々のグループが開発したシステムでは、重原子空間がもつ3つの効果により室温下、空気中においても室温りん光を効率的かつ簡便に誘導することが可能である。これにより、これまで知られていない様々な発光性分子が室温りん光を示す可能性があり、有機エレクトロニクス分野、ライフサイエンス分野への波及効果が大きく期待される

研究の意義と将来展望

室温りん光材料は高効率な有機 EL 素子における発光材料として用いられているが、現在利用されているのはイリジウムや白金のようなレアメタルを用いた重金属錯体であり、その開発範囲が限られてきた。一方で地政学的な観点から、このようなレアメタルを用いず、全有機材料で構成された室温りん光材料の体系的な開発が望まれている。本研究により、煩雑かつ付加的な有機合成を伴わず、これまで開発されてきた一般的な発光性分子を、多孔質材料が構築する重原子空間に閉じ込めるだけで様々な特性を持った室温りん光材料に変換することが可能となる。これにより、レアメタルに依存しない有機 EL 素子の開発や、高感度の生体イメージングツールへの応用が期待される。

担当研究者

教授 藤内 謙光(工学研究科 応用化学専攻 )

キーワード

多孔質有機塩/重原子効果/室温りん光材料

応用分野

有機エレクトロニクス/エネルギー変換/ライフサイエンス

参考URL

http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/~tohnaiken/scientific/
https://researchmap.jp/read0089607

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2024(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。