研究 (Research)

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炭素原子1つを正確に埋め込む化学反応の開発 (Development of single-carbon atom doping reactions )

教授 鳶巣 守、助教 藤本 隼斗(工学研究科 応用化学専攻) TOBISU Mamoru , FUJIMOTO Hayato (Graduate School of Engineering)

  • 理工情報系 (Science, Engineering and Information Sciences)
  • 工学研究科・工学部 (Graduate School of Engineering, School of Engineering)

English Information

研究の概要

本研究では N- ヘテロ環状カルベン(NHC)を原子状炭素等価体として利用することで、炭素原子1つだけを正確に埋め込む手法を開発した。本手法ではアミド化合物に対して炭素原子1つを埋め込むことによって、γ – ラクタム化合物が得られる。

研究の背景と結果

炭素は有機化合物に普遍的に存在する原子である。炭素は通常、4つの結合を持つ状態で存在する。低原子価の炭素化学種として、結合を3つしか持たないラジカル、2つしか持たないカルベン、1つしか持たないカルビンと呼ばれる化学種も知られている。これらの化学種は結合の数が少ないほど、より不安定になるため取り扱いが困難となる。一方で、結合の数が少ないほど、新たに形成可能な結合の数が多いため、複雑な炭素中心の構築が可能となる。ラジカル、カルベン、カルビンはそれぞれ前駆体となる安定な化合物が開発されており、これらの活性種を利用した化学反応が確立されている。
これに対して、原子状炭素は、結合を1つも持たない極めて不安定な化学種であり、それゆえ、化学反応での利用は実用的な観点からは達成されていなかった。本研究では NHC が原子状炭素等価体として振る舞うことを見出した。NHC はこれまで、配位子や触媒として有機合成に広く利用されてきた、有機化学では一般的な化合物である。本研究では NHC の全く新しい性質として原子状炭素等価体として振る舞うことを初めて明らかにした。NHC が原子状炭素等価体として機能するメカニズムは、同位体標識実験や計算化学手法を用いることによって明らかにしている。
今回開発した手法では、NHC によって炭素原子を埋め込むことで、アミド化合物からγ – ラクタム化合物を一段階で合成することができる。さらに、得られたγ – ラクタム化合物は対応するピロールやピロリジンへと誘導化可能であり多様な有用物質合成の中間体としても利用可能である。

研究の意義と将来展望

炭素原子を1つ増やす反応(一炭素増炭反応)は、有機合成において必須の反応形式である。これまでに一炭素増炭反応に利用できる様々な試薬が開発されているものの、いずれも炭素原子以外の原子も同時に導入するという形式の反応であり、本研究で実現された炭素原子1つだけを効率よく埋め込む化学反応は未開拓であった。原子状炭素等価体を使って一炭素増炭反応をおこなうことで、導入される炭素原子中心に対して新たに4つの化学結合が形成可能である。
これによって、単純な化合物から1段階で複雑な構造を持つ化合物へと化学変換することが可能になる。また、「炭素原子を埋め込む」という反応設計概念はアミド化合物以外にも応用可能であるため、さらに多彩な炭素原子埋め込み反応の創出が期待される。

担当研究者

教授 鳶巣 守、助教 藤本 隼斗(工学研究科 応用化学専攻)

キーワード

有機合成/原子状炭素/N-ヘテロ環状カルベン

応用分野

創薬/プロセス化学

参考URL

https://www-chem.eng.osaka-u.ac.jp/~tobisu-lab/
https://researchmap.jp/read0156480
https://researchmap.jp/hayato_fujimoto

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2024(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。