研究 (Research)
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触媒概念の融合に基づく分子設計と持続可能な物質変換・材料開発 (Unified catalysis concepts from molecular design to sustainable chemicals and materials)
教授 林 高史(工学研究科 応用化学専攻) HAYASHI Takashi (Graduate School of Engineering)
研究の概要
本研究は化学(有機化学、触媒化学、錯体化学、高分子)とバイオ(酵素工学、プロセス工学、ゲノム工学、医工学)および計算科学や機械学習を巻き込んだ学際領域において、触媒をキーワードとする物質変換や触媒設計、化学エネルギーの生産技術開発等の開発を、国際共同研究を主軸として実施するものである。化学とバイオが協働することによって、斬新な触媒の創製や持続可能な物質変換に寄与するプロセス開発に展開し、人工金属錯体をタンパク質に埋め込む新しい生体触媒の創製や、データサイエンスを駆使した触媒設計や酵素改変、遍在小分子から人工光合成による化学エネルギー源の生産、あるいは微生物と化学触媒を駆使した生体適合性材料の開発を実施する(図1)。
研究の背景と結果
持続可能な社会における物質変換には触媒は欠くことのできないツールである。特に、安価な原料や持続可能資源から高機能物質や化学エネルギー源(水素、メタノール等)への変換、高分子の分解により得られる低分子の有効利用は、合成化学および生物工学における重要な課題であり、その課題解決には優れた触媒や触媒を巧みに扱うプロセス開発が重要である。本研究は、令和4年末に採択された日本学術振興会科学研究費助成事業の国際共同研究加速基金(国際先導研究)によって開始したところであるが、既に大阪大学とドイツのアーヘン工科大学の双方の共同研究者とともに、国際的な人材交流を介した若手の育成を意識しながら、物質変換をつかさどる優れた触媒の設計と開発を実施している。これまでの研究成果の一つは、図2に示すように生体系に存在する金属含有酵素(金属酵素)には見られないロジウム金属を錯体の形で安定なβバレル構造を有するタンパク質(nitrobindin)にアミノ酸残基側鎖との共有結合を介して挿入し、アセトフェノンオキシムとアルキンからイソキノリンを合成する人工金属酵素の創製である。
さらに、触媒反応場として振る舞うβバレル構造の nitrobindin の空孔入り口に、遺伝子工学を駆使して別の脂質結合タンパク質の helix-loop-helix ドメインを導入したキメラタンパク質を構築した。またそのドメインをタンパク質の指向性進化工学手法に長けたアーヘン工科大学のグループと共同で改良し、イソキノリン合成の触媒活性を飛躍的に向上させることを達成した。その他にも現在、非天然の金属錯体をタンパク質の空孔に挿入した様々な人工酵素を構築し(図3参照)、天然の酵素反応を凌駕する活性の獲得や、天然には見られない反応をつかさどる触媒系の開拓に挑戦している。
研究の意義と将来展望
これまで化学およびバイオのそれぞれの分野で独自に発展を遂げている触媒開発について、両分野の協働がさらなる大きなインパクトを与えるものと期待される。本研究では、主に化学とバイオの学際的な国際共同研究を通じて、図1に示すように最新の触媒技術を用いた物質変換と材料の開発を精力的に実施するとともに、触媒の学術的概念の融合を目的としている。最終的な目標としては、化学触媒とバイオ触媒の融合と触媒概念の統一を図り、バイオエコノミーな物質変換に寄与する触媒の開発と利用をめざすことにある。
担当研究者
教授 林 高史(工学研究科 応用化学専攻)
キーワード
触媒/酵素/持続可能物質変換/化学エネルギー変換/バイオエコノミー
応用分野
サステイナブルケミストリー/酵素工学/人工光合成
参考URL
http://www.applied-bioinorganic.jp/jp/
https://researchmap.jp/20190602_Sun
https://uni-cat.jp