研究 (Research)
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多成分共有結合性有機構造体の構造解明と自在合成 (Development of multicomponent covalent organic frameworks )
准教授 鈴木 充朗(工学研究科 応用化学専攻) SUZUKI Mitsuharu (Graduate School of Engineering)
研究の概要
共有結合性有機構造体(Covalent Organic Framework, COF)は、有機典型元素間の共有結合を介して形成される結晶性多孔ポリマーです。良好な構造秩序や優れた多孔性などの特長をもつことから、ガス吸蔵・分離、センシング、触媒を始めとする様々な分野での応用が検討されてきました。なかでも3種類以上のモノマーを組み合わせた多成分系では、極めて多様な構造と物性が実現できると考えられます。我々は多成分 COF を「固溶体」とみなす独自の視点から、その設計と構造制御に取り組んでいます。固溶体という構造描像は、「多成分 COF では対称性が高く安定な構造が選択的に得られる」という従来の仮説とは大きく異なるものであり、新たな設計概念と合成化学的方法論の確立が求められます。
研究の背景と結果
COF は2005年に最初の例が報告された新しい材料でありながら、すでに膨大な数の構造が合成されています。その大部分は1種類もしくは2種類のモノマーからなるシンプルな構成ですが、近年は多成分系に関する報告例も増えてきました。多成分化がユニークな物性の発現につながる例も、複数見出されています。しかし、多成分 COF が期待通りに規則的なモノマー配列を持つのかは必ずしも明らかでなく、詳細な構造-物性相関の検討はほとんど進んでいません。また、そもそもどのような場合に多成分 COF が得られるのかについても、未解明な点が多く残されています。
このような背景のもと、我々はモノマーの物理的および化学的特性が多成分 COF の形成に与える影響の検証、および多成分 COF の構造解明に取り組んでいます。本研究ではその一環として、物理的寸法や化学反応性が異なるモノマーを組み合わせた12種類の3成分系を詳細に検討しました。その結果、対象とした六方晶系の COF の構造と形成要件について、① 3成分 COF は、モノマー配列の局所的な乱れとそれに伴う歪みを内包した「固溶体」のような構造をもつ、② その歪みが許容される場合にのみ3成分 COF が得られ、許容されない場合は2種類の2成分 COF の混合物が生成する、③ 組み合わせるモノマー間の反応性の差は3成分 COF の形成可否に大きく影響しない、ということが明らかになりました。
このような知見を積み重ねることにより、明確な指針に基づいた効果的な構造設計が可能になります。実際に本研究ではこれらの知見に基づき、2成分では構造体を形成できないモノマーの組み合わせでも、適切な第3成分を選択してそれを少量加えることでCOF が得られる例を示しました。また、固溶体のような構造特性は、これまで有機結晶ではほとんど検討されておらず、本研究の成果は機能材料の新たなフロンティアを提示するものです。
研究の意義と将来展望
多成分 COF を「固溶体」と捉えると、構造設計の自由度が飛躍的に高まります。例えば、結晶性を維持したまま組成や格子定数(COF では空孔径に相関)を連続的に調整するだけでなく、これまで有機材料でほとんど検討されてこなかったエントロピーの制御なども可能と考えられ、機能開拓の幅が大きく広がると期待されます。本研究はその端緒となるものであり、将来的にはエネルギー変換や多段階触媒などの複雑なプロセスを高効率で実現する、精巧な機能材料への展開を目指します。
担当研究者
准教授 鈴木 充朗(工学研究科 応用化学専攻)
キーワード
共有結合性有機構造体/多孔質結晶/固溶体
応用分野
センシング/エネルギー変換/分子ふるい
参考URL
http://www-etchem.mls.eng.osaka-u.ac.jp/index.html
https://researchmap.jp/-ms