研究 (Research)
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近赤外発光を示す基底三重項ジラジカルカチオン (Triplet diradical cation with near-infrared emission)
准教授 清水 章弘、教授 新谷 亮(基礎工学研究科 物質創成専攻) SHIMIZU Akihiro , SHINTANI Ryo (Graduate School of Engineering Science)
研究の概要
発光性の有機化合物は有機発光ダイオードやセンシングデバイスの材料として注目されている。閉殻の化合物を中心に研究されてきたが、近年では発光性の有機ラジカルも報告されている。一方、2個の電子スピンの向きが揃った基底三重項ジラジカルは磁性材料として注目されてきたが、反応性が高く、不安定なこともあり、光学材料としては注目されておらず、紫外可視領域に発光を示す分子が2つ報告されているのみである。
本研究グループは、基底三重項の縮合多環炭化水素である、トリアンギュレン誘導体の設計・合成に成功しており、今回、中央の炭素原子を窒素カチオンで置き換えた、窒素ドープトリアンギュレンカチオンを設計・合成した。その結果、トリアンギュレンと類似した磁気的性質を有しているにも関わらず、窒素ドープトリアンギュレンカチオンの光学的性質は大きく異なっており、近赤外領域の吸収と発光を示すことを明らかにした。
研究の背景と結果
発光性の有機化合物は有機発光ダイオードやセンシングデバイスの材料として注目されている。これまで、閉殻の化合物を中心に研究されてきたが、近年では発光性の有機ラジカルも報告されている。一方、2個の電子スピンの向きが揃った基底三重項ジラジカルは磁性材料として注目されてきたが、反応性が高く、不安定なこともあり、光学材料としては注目されていなかった。また、発光性を示す基底三重項ジラジカルは2つしか報告されておらず、分子設計の指針も提唱されていない。
本研究グループでは、基底三重項の縮合多環炭化水素である、トリアンギュレン誘導体の設計・合成に成功し、2個の電子スピンの向きが低温のみならず室温でも揃っていることを実験的に明らかにしている。本研究では、安定な基底三重項ジラジカルの創出を目指し、中心の炭素原子を窒素カチオンで置き換えた窒素ドープトリアンギュレンカチオンを設計・合成した。その結果、トリアンギュレンと類似した磁気的性質を有しており、2個の電子スピンが分子の外周部に非局在化し、その向きが室温で揃っていること、また、空気中でも安定であることを見出した。一方、光学的性質は大きく異なっており、窒素ドープトリアンギュレンカチオンは近赤外吸収(815 nm)を示し、骨格が剛直であるために近赤外発光(846 nm)も示した。
特徴的な光学的性質の原因を明らかにするために量子化学計算を行ったところ、交互炭化水素であるトリアンギュレンに対して、窒素カチオンをドープすることにより、軌道の交互対称性が低下し、T0–T1 遷移が許容になることが明らかになった。基底三重項の炭化水素に窒素カチオンをドープする方法は、磁気的性質は同じで光学的性質の異なる基底三重項ジラジカルカチオンを創出する方法として有望であると考えられる。
研究の意義と将来展望
本研究は、基底三重項ジラジカルの近赤外発光を初めて見出した研究であり、本研究に基づいて、今後、様々な発光性の基底三重項ジラジカルが創出され、優れた光学的性質と磁気的性質を併せ持つ機能性有機材料の創出が期待される。
担当研究者
准教授 清水 章弘、教授 新谷 亮(基礎工学研究科 物質創成専攻)
キーワード
磁石/スピン/ラジカル/有機分子/近赤外発光
応用分野
有機電子材料/有機磁性体
参考URL
http://www.chem.es.osaka-u.ac.jp/poc/
https://researchmap.jp/7000009063
https://researchmap.jp/RMshintani