研究 (Research)
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自閉スペクトラム症における感覚過敏性の病態解明 (Pathophysiology of sensory abnormality in Autism Spectrum Disorders )
教授 下野 九理子、特任教授(常勤) 谷池 雅子(連合小児発達学研究科) SHIMONO Kuriko , TANIIKE Masako (United Graduate School of Child Development)
研究の概要
自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder: ASD)は社会的コミュニケーションの障害や限定的な興味、こだわりを主徴とする発達性脳機能障害であり、近年、著しい増加が問題となっている。ASD児において聴覚過敏や視覚過敏などの感覚異常が多いことが知られ、社会適応を妨げる要因の一つとなっているが、感覚の問題は客観性に乏しく、感覚刺激を避けようとする行動は “ 個人のわがまま ” と捉えられてきた。ASD 児と定型発達児(TD 児)で聴覚、触覚、視覚、口腔感覚、複合感覚、前庭覚の6つの感覚について感覚異常についての質問紙調査を行ったところ ASD 児で感覚異常率は高く、特に複数の感覚異常を持つことが特徴であり強迫性や攻撃的行動と関係があることが明らかとなった。
我々は感覚異常を客観的に評価し、その病態を解明するために、神経活動を計測する脳磁図(MEG)を用いて ASD 児の感覚異常との関係について感覚刺激に対する脳活動を計測した。
研究の背景と結果
感覚刺激を行った際の脳活動を MEG にて評価した。感覚異常のあるASD においては聴覚刺激、視覚刺激に対して一次感覚野での反応の増強と遅延があることがわかった。さらに刺激への注意シフトや抑制と関係する前頭前野における反応の減弱も明らかとなった。次に輝度の異なる3種類の視覚刺激を用意し、脳活動を見たところ、視覚・聴覚の統合を担う上側頭溝の連合野の反応に違いを認め、感覚異常のスコアと相関を認めた。さらに、ASD 児においては複数の感覚系において併存した異常を示すことから視聴覚同時刺激を行い、感覚統合に関与する連合野での反応が異なることを示した。
研究の意義と将来展望
本研究ではASD児の感覚異常を客観的に評価できることを示し、また、その病態として感覚認知に関わる一次体性感覚野や感覚統合の連合野における皮質過敏性:興奮系(E)/ 抑制系(I)のバランスの変化や、前頭葉の注意・抑制ネットワークの異常が明らかとなった。また感覚異常と行動の関係からは島皮質への投射や視床を介した調節機構の異常も関与しているとされている。本研究により客観的な診断やこの部位に対する治療法の開発が期待される。
担当研究者
教授 下野 九理子、特任教授(常勤) 谷池 雅子(連合小児発達学研究科)
キーワード
自閉スペクトラム症/感覚異常/脳磁図
応用分野
医療・ヘルスケア
参考URL
https://www.ugscd-osaka-u.ne.jp/cdn/index.html
https://researchmap.jp/osaka_rengo
https://researchmap.jp/read0185088