研究 (Research)
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外傷診療における個別化医療推進を目指したアプローチ法の開発 (Development of approaches to promote personalized medicine in trauma care )
助教 舘野 丈太郎、特任助教 松本 寿健(医学系研究科 救急医学) TACHINO Jotaro , MATSUMOTO Hisatake (Graduate School of Medicine)
研究の概要
外傷の中でも特に死亡率の高い、多発外傷において損傷臓器の種類や重症度は多彩であり、これに年齢や性別、基礎疾患などの患者特性が複雑に組み合わさる。従来の研究では、外傷患者の異質性を加味した包含基準が設定されて来なかった。そこで、本研究では、全鈍的外傷患者を対象に日本外傷データバンクから機械学習を利用して外傷患者の個別化パターン(外傷フェノタイプ)の検出モデルを作成するとともに、プロテオミクスにより、高死亡率フェノタイプの生物学的特性を明らかにした。
研究の背景と結果
外傷診療の標準化が世界的に進んでいるものの、年間約450万人の外傷死亡が報告されており、世界的な課題となっている。外傷における凝固・線溶系や免疫反応の病態生理学的な重要性は広く理解されているが、これらを治療標的とした臨床応用は未だ限定的である。この状況は、患者背景や損傷の部位・程度が組み合わさり、病態の複雑さが一因であると考えられる。先行研究で多発外傷では、損傷臓器の組み合わせが患者の転帰に影響を与え、外傷死亡の潜在的リスクを示す可能性が示された (J. Tachino et al. J Trauma Acute Care Surg. 2021)。今回、研究グループは異質性の高い外傷患者に対して、機械学習を応用して潜在的なサブグループ (フェノタイプ)を同定し、病態解析を行うことで、外傷診療の新規アプローチ開発を目指して本研究を実施した。病態解析には患者血清を用いたプロテオーム解析 (質量分析)を行った。
71,038人の鈍的外傷患者の JTDB データを解析対象とし、8つの外傷フェノタイプが導出された。その中の1つは約50%と高死亡率を示し、このフェノタイプに対して潜在クラス分析を行い、さらに4つのフェノタイプ (α~δ)に分類した。「αは比較的若年者の多発外傷」、「βは頭部外傷で体温が低い」、「γは高齢者の重症頭部外傷」、「δは多発外傷で予測死亡率が実際の死亡率より高いことが特徴的」であった。次に、このフェノタイピングを大阪大学高度救命センターの90人の患者に適用し、血清を用いたプロテオーム解析を行った。高死亡率フェノタイプは他のフェノタイプと比較して、急性炎症反応の増強、補体活性化経路の調節異常、凝固および血小板脱顆粒経路の調節低下など、凝固障害を示すことが明らかになった。
研究の意義と将来展望
本研究の意義は大きく二つある。第一に、初期の外傷診療データを活用し、死亡率の高い臨床状態を特定した。これにより、早期介入が可能な集団を識別し、治療戦略の見直しや新規戦略の開発が期待される。第二に、プロテオーム解析で導出したフェノタイプの分子病態を評価し、高死亡率フェノタイプには凝固障害や過剰炎症が関与することを特定した。この知見は、新たな外傷治療戦略や治療薬開発へのブレイクスルーとなる可能性がある。現在、外傷フェノタイプをリアルタイムに同定するアプリケーションを開発しており、今後、電子カルテや画像診断との統合により、診療の過程で自然にフェノタイプの同定が行われるシステムの開発を進めていく予定である。
担当研究者
助教 舘野 丈太郎、特任助教 松本 寿健(医学系研究科 救急医学)
キーワード
外傷/フェノタイプ/免疫反応/個別化医療
応用分野
医療・ヘルスケア/バイオインフォマティクス
参考URL
https://www.med.osaka-u.ac.jp/activities/results/2022year/matsumoto2022-8-10-2
https://researchmap.jp/jotarotachino
https://researchmap.jp/38283828