研究 (Research)
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介護予防と健康な地域づくり推進に向けた自治体共同研究 (Collaborative research with local governments to prevent the need for long-term care and promote healthy community development)
教授 樺山 舞、特任助教 李 婭婭(医学系研究科 保健学専攻) KABAYAMA Mai , LI Yaya (Graduate School of Medicine)
研究の概要
ソーシャル・キャピタルといわれる、人と人のつながりが個人や地域の健康に重要であることが明らかになる中、超高齢社会を迎えた我が国では、介護予防対策として地域における高齢者の身近な ‘ 通いの場 ’づくりが推進されている。
我々はこれ迄、地域在住高齢者を対象とした介護予防の研究において、外出、人との交流、社会参加が、心身の健康や ADL の維持につながることを明らかとしてきた。しかし、新型コロナウィルス感染症が大流行した際、健康リスクの高い高齢者の外出は制限され、ICT を活用した対策も追い付かず、多くの高齢者の身体、社会、認知機能が低下したことが報告された。本研究室では、自治体と共同してこれら感染症等の影響や社会情勢等も鑑みながら、効率的、効果的な介護予防対策・健康な地域づくりの推進に資するための調査や現場の事業評価を行っている。
研究の背景と結果
新型コロナウィルス感染症が拡大した際、健康リスクの高い高齢者の外出は制限され、ICT を活用した対策も追い付かず、多くの高齢者の身体、社会、認知機能が低下したことが報告された。高齢者では ICTの使用や普及率が高いとはいえない。自治体におけるDX推進に向けて、まずは住民の利活用の実態を把握し、効果的な方策を検討することが必要である。本研究は、外出自粛下における高齢者の健康課題を把握し、ICT の利用によって、高齢者の孤独感・社会的孤立と認知機能低下の関連性が緩和されるかどうかを明らかにすることを目的とした。研究は大阪府能勢郡豊能町(2021年調査時:人口約1万9千人、高齢化率46.8%)のコロナ対策事業の一環として、町と共同して実施した。調査対象者は住民基本台帳から70-89歳を年代で層別した1,400人とした。調査時期は2021年2~3月であり、匿名の自記式質問票を豊能町役場宛ての返信用封筒とともに郵送した。本研究は、大阪大学臨床研究審査委員会の承認を得て実施した(倫理審査承認番号20369)。
回答は1,003名(回答率71.6%)から得られた。調査の結果、約69% の対象者が ICT を利用している実態が把握された。コロナ禍において主観的認知機能の低下があったと回答した80歳代は21.6%であり、70歳代(12.0%)の約2倍認められた。主観的認知機能低下を従属変数とした共変量調整ロジスティック回帰分析の結果、70歳代では、孤独感が、80歳代では、孤独感、孤立、ICT 非利用が有意に独立した関連を示した。さらに、ICT 利用有無と孤独感または孤立の交互作用の検討を行ったところ、70歳代では有意な交互作用項は示されなかったが、80歳代では ICT 利用によって、孤独感または孤立と主観的認知機能低下の関連が緩和される関係性が認められた。現在も町と共同して更に具体的な生活実態調査を行い、これらの結果を踏まえた効率的・効果的な保健事業の提案および事業評価、健康な町づくり対策を目指した研究を展開している。
研究の意義と将来展望
現在自治体では DX 推進を目指し、行政サービスにおける ICT の利活用が推奨されている。しかし高齢者ではその使用や普及率が高いとはいえず、その利活用の実態も十分に把握されていない。また、様々な理由によりICTを利用できない者が一定割合存在することが想定され、ICT を使用した介護予防対策が急速に発展・普及した場合、さらなる健康格差が拡大する恐れもある。本研究は、誰一人取り残されない社会の構築に向け、ICT 活用を含めた効果的な介護予防対策推進を目指すものである。
担当研究者
教授 樺山 舞、特任助教 李 婭婭(医学系研究科 保健学専攻)
キーワード
地域在住高齢者/介護予防/ICT/孤独感/コロナ禍
応用分野
医療・ヘルスケア/健康な地域づくり/介護予防
参考URL
https://sahswww.med.osaka-u.ac.jp/~kabayama/
https://researchmap.jp/kabayama
https://researchmap.jp/lia