研究 (Research)
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胸腺腫が重症筋無力症をはじめとする自己免疫性神経筋疾患を合併する機序の解明 (Identification of the mechanism by which thymoma implicates autoimmune neuromuscular diseases, including myasthenia gravis )
准教授 奥野 龍禎(医学系研究科 神経内科学)、特任教授(常勤) 大倉 永也(医学系研究科 基礎腫瘍免疫学共同研究講座)、教授 望月 秀樹(医学系研究科 神経内科学) OKUNO Tatsusada , OHKURA Naganari , MOCHIZUKI Hideki (Graduate School of Medicine)
研究の概要
重症筋無力症(MG)は神経筋接合部に存在するアセチルコリン受容体を標的とした自己抗体が出現する自己免疫疾患であるが、高率に胸腺腫を合併する。また胸腺腫には MG だけでなく自己免疫性脳炎やステイッフパーソン症候群などの自己免疫性神経疾患を合併することが知られていた。我々は、胸腺腫の公開データと病理及び臨床データを1細胞解析、トランスクリプトーム解析と組み合わせることにより、これら自己免疫性神経筋疾患が胸腺腫に合併する機序の解明を試み、神経筋抗原および CXCL12などのケモカインを高発現して自己抗原提示やリンパ球のリクルートメントを行うことにより自己免疫反応のトリガーとなりうる細胞 neuromuscular TEC (nmTEC)を同定した。
研究の背景と結果
MG はアセチルコリン受容体により、神経筋接合部が障害される自己免疫疾患であり、胸腺腫に高率に合併する。胸腺腫は腫瘍化した胸腺上皮(TEC)とリンパ球からなる腫瘍であり、胸腺上皮は自己抗原を発現することにより免疫寛容を誘導するがMGの病態にどのように関わっているかは未解決のまま残されている課題であった。
我々はこの点を明らかにするために The Cancer Genome Atlas に登録された胸腺腫データの再解析を行い、MG 関連遺伝子を探索した。同定できた遺伝子の中には、ニューロフィラメント、GABA 受容体、カリウムチャンネル、グリシン受容体、リアノジン受容体、ミオシンといった胸腺腫患者に出現する自己抗体の標的抗原が含まれていた。これらの MG 関連遺伝子がどの細胞に発現しているか検討するために、胸腺腫合併 MG 患者由来の胸腺腫及び末梢血単核球の単一細胞 RNAシーケンスを行ったところ、既存のデータベース上に存在しない未知の TEC に集簇していた。免疫染色ではニューロフィラメントや GABA受容体をはじめとする神経筋関連蛋白の発現が確認できた。神経筋抗原を発現する TEC という意味で我々はこの細胞を neuromuscular-TECs(nmTECs)と名付けた。遺伝子セット解析では nmTEC はクラス I、II MHC 抗原処理・提示の経路などが動いていた。またこの細胞はケモカイン CXCL12/SDF-1を高発現しており、リンパ球を胸腺腫に呼び込んで抗原提示をする微小環境を形作っていることが推定された。胸腺腫においては nmTEC により神経筋抗原反応性リンパ球が出現することが MG などの自己免疫性神経筋疾患を発症する要因となっていると考えられた。
研究の意義と将来展望
我々が同定した nmTEC が、MG をはじめとする胸腺腫関連自己免疫性神経筋疾患のトリガーとなっている可能性が示された。胸腺は免疫寛容誘導のために自己抗原を発現するという性質を有するが故に選択のエラーが起きると MG などの自己免疫性神経筋疾患が発症してしまう可能性が示唆される。nmTEC についてさらに研究を進めることにより臓器特異的自己免疫疾患の発症機序に迫ると共に MG 自然発症モデルの作成やこの細胞を選択的にターゲットとする治療法の開発に繋がることが期待できる。
担当研究者
准教授 奥野 龍禎(医学系研究科 神経内科学)、特任教授(常勤) 大倉 永也(医学系研究科 基礎腫瘍免疫学共同研究講座)、教授 望月 秀樹(医学系研究科 神経内科学)
キーワード
重症筋無力症/胸腺腫/nmTEC/自己免疫性神経筋疾患
応用分野
医療・ヘルスケア
参考URL
https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/neurol/myweb6/index.html
https://researchmap.jp/neuroimmunology
https://researchmap.jp/read0007148
https://researchmap.jp/read0207787