研究 (Research)
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外来に通院する高血圧患者の認知機能低下に関する多施設共同研究 (The study on cognitive impairment in hypertensive individuals in ambulatory care )
教授 山本 浩一、名誉教授 楽木 宏実(医学系研究科 老年・総合内科学) YAMAMOTO Koichi , RAKUGI Hiromi (Graduate School of Medicine)
研究の概要
Cherry 研究は高齢高血圧患者の認知機能低下の実態やその背景因子を探索する多施設共同コホート研究である。外来通院中の65歳以上の高血圧患者312人を対象にした検討で、約3分の1の患者が認知機能検査に基づく認知機能障害を有していた。より高齢であることと、日常生活動作の能力(IADL)低下が認知機能障害と関連していた。軽度認知障害が診断された患者集団との比較では年齢には差を認めず、IADLは比較的保たれ、内服降圧薬数は多い結果であった。
研究の背景と結果
研究の背景 :
65歳以上の半分以上が罹患する高血圧は、高齢者にとって最も影響の大きい生活習慣病である。一方、認知機能障害を早期発見し適切なケアを行うことは社会的および医学的な負担を軽減するために重要である。高血圧患者の認知機能障害は降圧薬の服薬アドヒアランスや降圧療法による転倒リスクなどに影響を及ぼすため早期発見することが重要であるが、実際には自覚症状のない認知機能障害を検出することは容易ではない。Cherry 研究は全国6基幹病院の通院患者を対象に、高血圧と認知機能低下の関連を明らかにしてケアの最適化につなげることを目的としたコホート研究である。本研究では Cherry 研究の初回登録データを用いて高血圧患者の認知機能低下の実態について明らかにすることを目的とした。
結果(Results):
外来通院中の高血圧患者312人において、MMSE スコア≤ 27や≤ 23で定義した認知機能障害や認知症の患者がそれぞれ35%(n=109)と7.7%(n=24)であった。認知機能障害のある患者は、ない患者と比較して年齢が高く、教育水準が低かった。認知障害のある患者は基本的な日常生活動作(ADL)および手段的 ADL(IADL)が低く、高齢者うつスコアは同等であった。高血圧の治療や診察室、家庭血圧のコントロール状況は両群で差が無かった。認知障害のある患者は握力や歩行速度の低下を認めた。多変量ロジスティック回帰分析では、年齢と IADL スコアが認知機能障害と関連する因子であることが示された。また確定診断された軽度認知障害のコホートであるオレンジレジストリとの比較では年齢、性別、教育レベル、およびMMSEに差を認めなかったが、Cherry study の登録者では糖尿病、脂質異常の有病率や高血圧の重症度が高く、IADL はより保たれていた。
研究の意義と将来展望
本研究の結果は、高齢高血圧患者の多くが気づかれずに認知機能障害を有していることを示すものである。同様の研究結果は糖尿病患者でも報告されており、加齢とともに認知機能が低下することを意識した生活習慣病治療の必要性を改めて明らかにしたことに本研究の意義がある。Cherry 研究の縦断調査では、認知機能障害の経時的な悪化に筋力低下が関与することなどの結果が得られている。研究グループでは身体機能低下と認知機能低下が同時に進行する「認知フレイル」の病態が存在すると考えており、検証を進めたい。また、このような認知機能低下をスクリーニングするためには、より簡便な認知機能検査の開発も求められる。研究室では認知機能低下や身体機能低下を簡便に行う方法を開発しており、今後、応用を進めたい。
担当研究者
教授 山本 浩一、名誉教授 楽木 宏実(医学系研究科 老年・総合内科学)
キーワード
高血圧/認知機能障害/老年医学
応用分野
医療・ヘルスケア/老化研究
参考URL
https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/geriat/www/
https://researchmap.jp/kymt0410
https://researchmap.jp/read0042763