研究

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肝細胞癌のがん微小環境解析とMRI画像を用いた複合免疫療法治療効果予測 (Prediction of therapeutic effect of combined immunotherapy using tumor microenvironment analysis and MRI images of hepatocellular carcinoma )

助教 小玉 尚宏、教授 竹原 徹郎(医学系研究科 消化器内科学) KODAMA Takahiro , TAKEHARA Tetsuo (Graduate School of Medicine)

  • 医歯薬生命系
  • 医学系研究科・医学部(医学専攻)

English Information

研究の概要

肝細胞がんは再発率が高く予後不良ながんとして知られています。進行した肝細胞がんに対しては抗 PD-L1抗体/抗 VEGF 抗体の複合免疫療法(アテゾリズマブ・ベバシズマブ併用療法)を中心に様々な薬物療法が実施されますが、その効果は限定的です。そこで各薬剤の治療効果を予測できるバイオマーカーが求められています。今回、100例を超える肝細胞がん患者の切除検体を用いてマルチオミックス解析を実施し、予後や腫瘍内の免疫動態に基づいて肝細胞がんを層別化することに成功しました。さらに、がん細胞内の脂肪滴貯留という特徴を有する脂肪蓄積肝細胞がんが免疫チェックポイント阻害剤の効果を得られやすい免疫疲弊の状態にあることを見出し、MRI 画像により腫瘍内脂肪蓄積を認めた患者は、複合免疫療法の効果が良好となることを示しました。

研究の背景と結果

肝がんは WHO の統計では死亡数が3位(約83万人)のがんです。日本国内においても年間死亡数は2万5千人に達し、5年生存率が35.8%と報告されている難治性がんです。進行した症例に対しては薬物療法が行われますが、近年様々な薬剤が開発され、第一選択の抗PD-L1抗体/抗 VEGF 抗体の複合免疫療法(アテゾリズマブ・ベバシズマブ併用療法)を中心に計8種類の治療選択肢が存在します。一方で、いずれの治療薬も腫瘍の消失 / 縮小効果が得られる患者は3割未満と低いことが問題です。また、多くは肝硬変を背景に発症するため、肝予備能の低下によりこれらの薬剤を全て使い切れる患者も多くありません。そこで、生命予後の改善には、患者毎に最適な薬剤を選択する “ 個別化医療”が重要であり、その実現には各薬剤の治療効果予測バイオマーカーの開発が喫緊の課題でありました。我々は、外科的切除を受けた113例の切除肝がん組織を用いてトランスクリプトーム解析とゲノム解析を実施しました。これらの情報に基づいてがん免疫微小環境を解析し、臨床病理学的因子との関連を検討した結果、がん細胞に脂肪滴貯留を認める脂肪蓄積肝細胞がんにおいては、腫瘍内に強い免疫細胞浸潤を認める一方、浸潤した免疫細胞に疲弊が生じていることを発見しました。また、リピドミクス解析により脂肪蓄積肝細胞がんでは飽和脂肪酸の一種であるパルミチン酸が増加していることを同定しました。更に、肝がん細胞株を使用した実験でパルミチン酸が肝がん細胞の膜表面におけるPD-L1分子の発現を増加させることを明らかにしました。最後に、脂肪蓄積肝細胞がんは MRI 画像により同定が可能であり、アテゾリズマブ・ベバシズマブ併用療法に高い感受性を示すことを明らかにしました。

研究の意義と将来展望

複合免疫療法の治療効果を事前に予測することで、様々な薬物療法の選択肢の中からより最適な薬剤選択を行うことが可能となり、進行肝細胞がん患者の生命予後改善に寄与することが期待されます。また、MRI 検査は肝細胞がんの診断目的に実施されることから、一度の検査で非侵襲的に複合免疫療法の治療効果を予測できる点で、患者に優しいバイオマーカーとなることが期待されます。さらに、本研究から脂肪滴貯留を介した肝がんの免疫逃避機構を標的とした治療薬開発に繋がることも期待されます。

担当研究者

助教 小玉 尚宏、教授 竹原 徹郎(医学系研究科 消化器内科学)

キーワード

脂肪蓄積肝細胞がん/免疫疲弊/免疫チェックポイント阻害剤/MRI/バイオマーカー

応用分野

医療・ヘルスケア/創薬

参考URL

https://researchmap.jp/takahirokodama
https://researchmap.jp/takeharatetsuo

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2024(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。