研究

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駆出率が維持された心不全患者におけるHFA-PEFFスコアの予後的意義 (Prognostic significance of the HFA-PEFF score in patients with heart failure with preserved ejection fraction )

助教 外海 洋平(医学系研究科 循環器内科学)、教授 坂田 泰史(医学系研究科 循環器内科学) SOTOMI Yohei , SAKATA Yasushi (Graduate School of Medicine)

  • 医歯薬生命系
  • 医学系研究科・医学部(医学専攻)

English Information

研究の概要

私たちの研究は、心機能が保たれた心不全(HFpEF)の診断に用いる HFA-PEFF スコアの予後予測能力を検証することを目的としています。大阪大学関連病院26施設で実施した前向き多施設観察研究PURSUIT-HFpEF では、871例の急性代償性心不全患者のデータを収集し、平均399日にわたり追跡しました。退院時のデータに基づいて算出した HFA-PEFF スコアについて、全死亡と心不全再入院のリスクを予測するために評価しました。その結果、HFA-PEFF スコアが高い患者群(6点)は、低スコア群(2−5点)に比べて主要エンドポイントのリスクが有意に高いことが明らかになりました。これは、HFA-PEFF スコアが HFpEF 患者の予後を予測するための有効なツールであることを示しています。

研究の背景と結果

欧州心臓病学会の心不全協会(HFA)は、駆出率が維持された心不全(HFpEF)の理解が深まり、診断方法が進化したことを受けて、新しい包括的診断アルゴリズムを導入しました。このアルゴリズムは、患者の事前評価、心エコーとナトリウム利尿ペプチドを用いた診断スコア、機能検査、最終的な病因の特定という4つのステップで構成されています。
中心となるのは HFA-PEFF スコアで、これは心エコーのパラメータとナトリウム利尿ペプチドの検査結果を組み合わせたスコアリングシステムです。このスコアは機能的、形態学的、バイオマーカーの3つのドメインに基づいており、これらは左室充満圧と密接に関連しています。HFA-PEFF スコアは、HFpEF の重症度を示すと同時に、診断ツールとしての役割を果たします。このスコアリングシステムは、診断アルゴリズムの一部として開発されたものの、臨床転帰を予測するツールとしても有効であるという仮説が提唱されています。我々の研究では、大規模な前向き多施設登録を通じて、HFpEF 患者の臨床転帰に対する HFA-PEFF スコアの予後的意義を評価することを目的としました。
PURSUIT-HFpEF 研究は、大阪大学関連病院26施設 (N=871) で行われた前向き多施設観察研究で、左室駆出率が50%以上の急性代償性心不全患者の臨床データ、心エコーデータ、転帰データを収集しました。この研究は、フラミンガム基準とナトリウム利尿ペプチド値を用いて急性代償性心不全を診断し、HFA-PEFF スコアを用いて患者の予後を評価することを目的としています。HFA-PEFF スコアは、機能的、形態的、バイオマーカー的な領域を含むもので、退院時のデータに基づいて算出されました。2016年6月から2019年12月までの期間に871例の患者が登録され、平均追跡期間は約399日でした。Kaplan-Meier解析により、HFA-PEFF スコアが低い患者群(スコア2~5)と高い患者群(スコア6)とで主要エンドポイントのリスクに有意な差があることが示されました(調整ハザード比1.446、95%信頼区間 [1.099-1.902]、P = 0.008)。
この研究は、HFA-PEFF スコアが単なる診断ツールにとどまらず、実用的な予後予測ツールとしても臨床的に有用であることを示唆しています。このスコアリングシステムを用いることで、HFpEF 患者の退院後のリスクをより正確に予測し、適切な治療方針を立てるための重要な情報を提供することができると考えられます。

研究の意義と将来展望

この研究は、HFA-PEFF スコアが診断ツールに留まらず、予後予測ツールとしても価値があることを強調しています。スコアの各領域は非侵襲的で日常の臨床で容易に評価できるため、退院後の治療方針を決定する際に役立つと考えられます。
将来的には、HFpEF のリスク予測モデルが確立されることが期待されていますが、現時点では HFA-PEFF スコアを実用的な予後予測ツールとして活用できます。ただし、これらの結果が他の集団にも適用可能かどうかは、慎重に検討する必要があります。私たちのコホートはアジア人であり、肥満度が低いことなど、人種差の影響を示唆しています。本研究の結果は、他国でのさらなる研究によって再検証する必要があります。

担当研究者

助教 外海 洋平(医学系研究科 循環器内科学)、教授 坂田 泰史(医学系研究科 循環器内科学)

キーワード

心不全/HFpEF/HFA-PEFFスコア

応用分野

医療

参考URL

https://researchmap.jp/sotomiyohei
https://researchmap.jp/C4589

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2024(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。