研究 (Research)

最終更新日:

人工染色体技術を用いたマラリア原虫からの薬剤耐性遺伝子同定法の開発 (Novel method for functional screening of a drug resistance gene from malaria parasite)

教授 岩永 史朗(微生物病研究所 分子原虫学分野) IWANAGA Shiroh (Research Institute for Microbial Diseases)

  • 医歯薬生命系 (Medical, Dental, Pharmaceutical and Life Sciences)
  • 微生物病研究所 (Research Institute for Microbial Diseases)

English Information

研究の概要

薬剤耐性問題はマラリア対策において最大の脅威の一つである。耐性を付与する遺伝子(薬剤耐性遺伝子)の同定は耐性機構の解明のみならず、耐性拡散の監視における有用な分子マーカーとなる。
本研究では独自に開発した熱帯熱マラリア原虫人工染色体技術を応用し、耐性遺伝子を機能性スクリーニングによって迅速に同定する手法を開発した。さらに実際に開発した手法を使い、タイ – ミャンマー国境地域のマラリア患者から採取した薬剤耐性マラリア原虫から新規にメフロキン耐性遺伝子を同定することに成功した。

研究の背景と結果

マラリアは Plasmodium 属原虫の感染により引き起こされ、年間約2.2億人の患者と約60万人の死者を出す世界三大感染症の一つである。熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)はヒトに対し最も重篤な症状を引き起こし、前述の死者の多くがその感染による。熱帯熱マラリアの治 療 は アルテミシニンと他の薬剤を組み合わせた Artemisinin Combination Therapy(ACT)を第一治療法として進められている。しかし、2009年にカンボジアにおいてアルテミシニン耐性が出現したこと、並びに他の薬剤に対する耐性が世界的に拡散したことから ACTの治療効果の低下が強く懸念されている。薬剤耐性遺伝子は耐性機構の解明のみならず、耐性監視の分子マーカーとして利用できることから、その同定は耐性対策に必須である。現在、熱帯熱マラリア原虫からの耐性遺伝子の同定は人工的に作出した耐性原虫の全ゲノム解析により行われているが、耐性原虫作出に年単位の時間を要すること、同定した変異が実際の患者由来耐性原虫では存在せず偽陽性であることなどの問題点があり、その改善が求められている。
これに対し我々研究グループでは薬剤耐性原虫ゲノムより人工染色体を用いて、感受性原虫内に直接、全ゲノムをカバーする遺伝子ライブラリーを作製し、これを薬剤スクリーニングすることにより耐性遺伝子を同定する手法を開発した(図1)。本手法では耐性原虫由来の薬剤耐性遺伝子が組み込まれた原虫クローンは新たに耐性を獲得するため、薬剤存在下で生存・増殖しうるが、同原虫由来の他の遺伝子が組み込まれた原虫クローンは感受性のままであるため、死滅する。この差を利用することにより迅速に耐性遺伝子を同定できると期待される。
実際にこの手法を耐性遺伝子が未知のメフロキン耐性原虫に適用した結果、新規ト ランスポーター遺伝子(multidrug resistance protein 7, PfMDR7)を耐性遺伝子として同定することに成功し、その実用性を証明した(図2)。

研究の意義と将来展望

開発した手法は現在の次世代シークエンサーを用いた手法とは原理的に全く異なり、新たな耐性遺伝子同定法である。特にその迅速性は特筆すべき点であり、耐性遺伝子同定を僅か2〜3ヶ月で実施できる。また、患者由来の耐性原虫が一株あれば遺伝子同定を行うことができ、耐性が世界的に拡散する前に監視・封じ込め実施が可能となると期待される。今後、新薬の開発と共に耐性出現の監視が必須となることからマラリア対策の推進に大きく貢献すると期待される。

担当研究者

教授 岩永 史朗(微生物病研究所 分子原虫学分野)

キーワード

熱帯熱マラリア原虫/薬剤耐性遺伝子/人工染色体

応用分野

グローバルヘルス

参考URL

https://malaria.biken.osaka-u.ac.jp/research/for_public
https://researchmap.jp/shirohiwanaga

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2024(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。