研究 (Research)
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遺伝子でコードされた高速応答性蛍光温度指示薬の開発 (Development of a fast-responding genetically-encoded temperature indicator)
特任准教授 和沢 鉄一、特任研究員 魯 慨、教授 永井 健治(産業科学研究所 第3研究部門) WAZAWA Tetsuichi , LU Kai , NAGAI Takeharu (SANKEN (The Institute of Scientific and Industrial Research))
研究の概要
遺伝子でコードされた温度指示薬(Genetically-Encoded Temperature Indicator; GETI)は、温度の測定やイメージングのために用いられるタンパク質あり、その温度応答性蛍光シグナルを介して温度測定を行うものである。本研究では、正確な温度測定が可能な蛍光比型 GETI で、温度変化に対する蛍光応答時間が1ミリ秒以下という従来になかった高速応答性を示す B-gTEMP を開発した。B-gTEMPを哺乳類細胞中の温度イメージングに用いることで、細胞内におけるミリ秒オーダーで起こる熱拡散過程の実時間観察に成功した。さらに、観察された細胞内熱拡散過程と熱拡散シミュレーションとの比較解析から、細胞内の熱拡散係数は純水中の1/5程度と算出され、細胞中の熱拡散はかなり遅いことを明らかにした。
研究の背景と結果
体温の恒常性や調節には生体内の熱産生が重要な役割を果たしている。特に筋肉以外で起こる非ふるえ熱産生は、体温の維持のみならず、炎症発熱、寒冷適応、肥満等との関連も指摘されているが、その熱産生メカニズムや生理的な重要性の理解はあまり進んでいない。細胞レベルでの熱産生の研究ツールとしては、蛍光顕微鏡で細胞内温度を測定することができる分子性プローブである蛍光性の温度指示薬が有用であり、これまでに様々な材料を用いたものが開発されてきた。
特に、細胞等の生きた試料内へ遺伝子として導入してタンパク質として発現させるタイプである遺伝子でコードされた温度指示薬(GETI)は、試料内への導入と観察における低侵襲性や、特異的なラベル化のためにDNA 上で自由に設計可能という理由などから、非常に有用である。しかし、従前に開発された GETI は温度変化に対する応答速度が遅いか、あるいは時間が掛かる観察法が必要なものであったため、細胞内で起こる熱発生に伴う速い熱拡散過程をリアルタイムで捉えることが可能な高速応答性 GETI の開発が望まれていた。
本研究では、蛍光強度が温度に応答する赤色蛍光タンパク質と温度応答性が小さい緑色蛍光タンパク質を組み合わせた GETI であるB-gTEMP を開発した。B-gTEMP は、赤色蛍光/緑色蛍光の比と温度を対応させることで正確な温度測定が可能であり、温度変化に対してミリ秒以下の応答時間で蛍光が応答する。さらに、我々は、細胞内の熱拡散過程をサブミリ秒の時間分解能で観察することに成功し、その結果と細胞内の熱拡散シミュレーションを比較することで、細胞内の熱拡散は純水中の1/5程度とかなり遅いことを明らかにした。
今後、B-gTEMP を熱生物学研究に応用することで、細胞における非ふるえ熱産生と温度調節との関わりや、熱産生が関与する疾病等の研究に寄与すると期待する。
研究の意義と将来展望
恒温動物の体内で起こる熱産生は、体温の恒常性や調節において重要な役割を果たしている。細胞レベルで熱産生のメカニズムを解明するためには、動物細胞のような10ミクロンオーダーの小さい空間内で起こる速い熱拡散プロセスの観察に適用可能な高速応答性の GETI が必要であった。
今後、B-gTEMP を用いた高速温度イメージングの応用により、細胞内の温度調節メカニズムの解明や、細胞内熱産生が関わる疾病メカニズムの詳細の解明が期待される。
担当研究者
特任准教授 和沢 鉄一、特任研究員 魯 慨、教授 永井 健治(産業科学研究所 第3研究部門)
キーワード
熱産生/熱拡散/蛍光タンパク質/蛍光イメージング/タンパク質工学
応用分野
医療・ヘルスケア/創薬
参考URL
https://www.sanken.osaka-u.ac.jp/labs/bse/
https://researchmap.jp/wazawa
https://researchmap.jp/ka1lu
https://researchmap.jp/ng1