研究 (Research)
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有機太陽電池への応用を指向した非縮環型アクセプター材料の創製 (Development of electron acceptors for organic solar cells)
助教 陣内 青萌、教授 家 裕隆(産業科学研究所 ソフトナノマテリアル研究分野) JINNAI Seihou , IE Yutaka (SANKEN (The Institute of Scientific and Industrial Research))
研究の概要
可溶性有機半導体材料を発電層に利用する有機太陽電池は、優れた柔軟性や軽量性、デザイン性の他、印刷プロセスを利用した大面積化が容易であることから、次世代の太陽光発電技術として注目されている。当グループでは最近、フルオレン骨格とチオフェン骨格が垂直となるように連結したオリジナルの分子ユニット (FT) が、①分子の剛直性向上と、②分子間のπ – πスタッキングの抑制に効果的であることを見出した。
これらの特徴は有機太陽電池のアクセプター材料に最適であり、実際に FT ユニットを利用して開発したアクセプター材料 TT-FT-DCI は非縮環型の発電層材料として高い発電効率を示すことを見出した。最近では FT ユニットを利用して、緑色波長を選択的に吸収し、赤・青色波長を透過する緑色波長選択型の半透明 OSC を開発した。本発電層を透過した疑似太陽光下では農作物の光合成が進行する事を見出した。
研究の背景と結果
可溶性有機半導体材料を発電層に利用した有機太陽電池(OSC)は、大面積デバイス、軽量性、柔軟性、リサイクル性といった特徴を有していることから次世代の太陽光発電技術として注目されている。近年の高性能の有機半導体材料の開発に伴って、2020年にはシリコン型太陽光発電パネルに迫る18%の発電効率が達成された。OSC の社会実装が視野に入る状況においても、さらなる高効率材料の探索が重要であることは言を俟たない。その一方で、大規模製造の実現性、環境適合性、素子耐久性を見据えた新規材料の開発、および、OSCならではの特徴を活かした用途開拓の重要度が増している。
OSCの発電層は p 型有機半導体材料(ドナー)とn型有機半導体材料(アクセプター)の二成分混合薄膜で構成される。従来、アクセプター材料の開発では縮環型分子骨格の構築が不可欠とされていた。しかし、縮環骨格の構築には一般的に多段階の合成プロセスが必要であり、有機太陽電池の社会実装の観点からは合成が簡便、かつ、誘導体開発が容易な非縮環型のアクセプター材料にも注目が集まっている。このような背景のなかで、当グループで被覆型単分子導線の研究を通じて、フルオレン骨格をチオフェン骨格に対して垂直となるように導入した三次元構造の分子ユニット (FT)を開発した。FTユニットは非縮環タイプの共役ユニットでありながら、共役鎖の剛直性を向上させる効果がある。また同時に、分子間のπ – πスタッキングを抑制する効果があり、有機太陽電池のアクセプター材料の設計指針と合致している。実際に FT ユニットを利用して開発したアクセプター材料 TT-FT-DCI は非縮環型の発電層材料として高い発電効率を示すことを見出した。
最近では FTユニットを利用して、緑色波長領域に選択的な吸収を有するアクセプター材料 TT-FT-ID を開発した。TT-FT-ID は同じく緑色領域に吸収を有するドナー材料 P3HT との組み合わせに適しており、これらを組み合わせて作製したOSCは緑色波長選択型の半透明OSCとして駆動した。本発電層を透過した疑似太陽光下では農作物の光合成が進行する事を見出した。
研究の意義と将来展望
有機材料の特徴は、分子構造修飾によって物性や機能を精密にデザインできることである。当研究では発電層材料の分子設計を通じて、緑色波長領域に選択的な吸収を有する半透明OSCを実現し、太陽光発電と農作物の生育が両立可能であることを見出すことができた。当グループではこの新たな営農型太陽光発電技術の可能性を追求すると共に、有機材料の特徴を活かした新機軸の有機エレクトロニクスの探求に取り組む。
担当研究者
助教 陣内 青萌、教授 家 裕隆(産業科学研究所 ソフトナノマテリアル研究分野)
キーワード
有機太陽電池/有機半導体/有機機能性材料
応用分野
創エネルギー/営農型太陽光発電/スマートデバイス
参考URL
https://www.sanken.osaka-u.ac.jp/labs/omm/
https://researchmap.jp/jinnai.seihou
https://researchmap.jp/read0105668