研究 (Research)
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1分子レベルでレアイベントを見つける (Find rare events at single-molecule level)
助教 小本 祐貴、教授 谷口 正輝(産業科学研究所 バイオナノテクノロジー研究分野) KOMOTO Yuki , TANIGUCHI Masateru (SANKEN (The Institute of Scientific and Industrial Research))
研究の概要
電気的な1分子計測法と AI の融合に基づく1分子カウンティングにより、塩基分子―リガンドの結合性、選択性、および水素結合様式の数を1分子レベルで定量的に評価できることを実証した。リガンドとグアニンの混合溶液を計測するだけで、5つのリガンドとグアニンのそれぞれの結合性の定量評価に成功した。さらに、リガンドと塩基分子の混合溶液を計測するだけで、1つのリガンドと4種類の塩基分子に結合する選択性を定量的に求めることができた。また、ミクロな水素結合の様式とその数がリガンドに依存することを明らかにした。
研究の背景と結果
これまで、多くの薬は、タンパク質をターゲットにして開発されてきた。今、DNA や RNA をターゲットにした核酸標的分子が、新たな創薬の道を切り拓くことが期待されている。核酸標的分子は、DNA やRNA 以外に、低分子も含む。これまでタンパク質をターゲットに開発されてきてチャンスを伺っている多数の低分子が、核酸標的低分子薬になる可能性を秘めている。創薬研究の第一歩は、低分子が核酸に選択的に強く結合することを確認することにある。多くの場合、水素結合が、選択的結合の中心的な役割を担う。しかし、低分子と核酸の水素結合様式が、1分子レベルで調べられたことはなく、低い確率で生成される、レアイベントな結合様式が明らかにされることはなかった。
1分子電気伝導度計測により1分子を識別する1分子計測法と、計測で得られる電流波形を学習する AI の融合により、1分子レベルで分子種を数え上げる1分子カウンティング法を開発した。1分子カウンティング法を用いて、グアノシンと5種のホスト分子の会合状態シグナルを1分子レベルで検出することに成功した。5種の会合状態のカウント数の順番が、5種のリガンドの水素結合の数と結合エネルギーの順番と一致することを見出した。これは、1分子カウンティング法が、グアノシンとリガンドの結合の強さを定量評価できることを示している。また、1種のリガンドと4種の塩基との会合状態のカウント数が、リガンドの選択性に一致することを明らかにした。1分子カウンティング法は、リガンドの選択性も定量評価することができる。さらに、シグナルクラスタリング法を用いて、会合状態のグループ数を推定した。量子計算により推定された準安定な会合状態と各シグナル統計解析に基づき、溶液中の各シグナル群の潜在的な会合状態を1分子レベルで推定することができた。推定された会合状態には、予測とは異なるレアイベントな会合状態が含まれることが明らかとなった。
研究の意義と将来展望
近年、DNA とRNA を創薬ターゲットとした低分子医薬品の開発が進められている。低分子医薬品の開発には、薬となるリガンドと塩基分子が形成する相互作用情報が重要である。塩基分子-リガンド相互作用は、塩基分子―リガンドの結合性、選択性、および水素結合様式で決定される。しかし、溶液中の1分子レベルの塩基―リガンド相互作用における結合性、選択性、および水素結合様式は、不明である。開発した1分子カウンティングは、分子間相互作用で形成される会合体の溶液中の性質を定量的な情報で与えることを可能にする。1分子カウンティング法は、飛躍的に成長している核酸標的低分子創薬研究を強力に推進するツールになると期待される。
担当研究者
助教 小本 祐貴、教授 谷口 正輝(産業科学研究所 バイオナノテクノロジー研究分野)
キーワード
1分子カウンティング/1分子科学/ナノギャップ/リガンド/DNA
応用分野
医療・ヘルスケア/創薬/材料
参考URL
http://www.bionano.sanken.osaka-u.ac.jp/
https://researchmap.jp/YukiKomoto
https://researchmap.jp/read0076413