研究 (Research)
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木材由来、3D構造と機能をカスタマイズできる半導体ナノ材料の創出 (Wood-derived semiconducting nanomaterials with customizable 3D structures and functions)
准教授 古賀 大尚(産業科学研究所 自然材料機能化研究分野) Hirotaka Koga (SANKEN (The Institute of Scientific and Industrial Research))
研究の概要
3D ネットワーク構造を持つ半導体ナノ材料は、大比表面積・高透過性・電気伝導性等、吸着・分離・センシング用途に適した特性を有しています。しかし、従来の半導体ナノ材料は、3D 構造の設計性および電気特性の制御範囲に限界があるため、実際の機能や用途展開が大きく制限されています。
その中で我々は、木材セルロースナノファイバー由来の紙「ナノペーパー」を用いて、紙ならではの3D 構造設計技術、および、段階的炭化による電気特性制御技術を構築し、ナノ~マイクロ~マクロのトランススケールで3D 構造設計が可能、かつ、絶縁体~準導体レベルで系統的に電気特性制御可能な新奇半導体ナノ材料を創出することに成功しました(図1)。これらの特長は、従来の半導体ナノ材料を凌駕するもので、目的や用途に応じた3D構造と機能のカスタマイズを可能にします。実際に、センサデバイスから発電デバイスまで、広範な用途において極めて優れた性能を発揮しました(図2)。
研究の背景と結果
近年、半導体ナノ材料をビルディングブロックに用いた3D 構造設計が盛んに行われています。例えば、ナノスケールの細孔が設計された3D 構造体は、大比表面積や高透過性といった吸着・分離・センシング用途に理想的な特性をもたらします。また、格子状に設計されたマイクロスケールの3D 構造体は、微圧センシングに適した弾性を、球状に設計されたマクロスケールの3D 構造体は、全方位光センシングに適した光捕集性をもたらします。一方、半導体ナノ材料自体の機能拡張に向け、電気特性制御に関する技術開発も盛んです。
このように、ナノ~マイクロ~マクロの3D 構造設計と電気特性制御は、半導体ナノ材料の機能制御・用途開拓に向けた合理的な戦略になります。しかし、従来の半導体ナノ材料と技術では、3D 構造の設計範囲と電気特性の制御範囲が限定されています。すなわち、単一の半導体ナノ材料による、ナノ~マイクロ~マクロ全てを網羅するトランススケールの3D 構造設計と広範な電気特性制御は、未だ達成されていません。
本研究では、木材セルロースナノファイバー由来の紙「ナノペーパー」を段階的に炭化することによって、その電気特性を広範かつ系統的に制御できる半導体ナノ材料を創出しました。本「ナノペーパー半導体」の電気特性制御範囲は、電気抵抗率:1013~10-2 Ω cm(絶縁体~準導体)(図1a)、電荷キャリアタイプ:p 型 or n 型、キャリア移動度:0.235~2.59 cm2 V-1 s-1を網羅します。さらに、ナノペーパーの構造設計技術(エンボス加工・折り紙・切り紙等)を応用することで、その3D 構造をナノ~マイクロ~マクロに至るトランススケールで制御することにも成功しました。(図1b)ナノペーパー半導体の広範な電気特性制御範囲とトランススケールの3D 構造制御性は、従来の半導体材料を凌駕する特長であり、目的や用途に応じた機能と構造のカスタマイズを実現します。実際に、ウェアラブル水蒸気センシングによる飛沫モニタリング(図2a)からバイオ燃料電池発電まで、幅広い用途において優れた電子デバイス性能を確認しました(図2b)。
研究の意義と将来展望
本研究成果は、木材由来のセルロースナノファイバーに半導体としての新たな価値を生み出すもので、今後さらなる機能・用途開拓が期待されます。将来、金属や石油資源に依存しない生物資源由来の持続性エレクトロニクスの実現に貢献します。
担当研究者
准教授 古賀 大尚(産業科学研究所 自然材料機能化研究分野)
キーワード
ナノセルロース/半導体/センサデバイス/発電デバイス
応用分野
グリーンデバイス/持続性エレクトロニクス