研究 (Research)

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電着技術を用いたナノセルロースの配向・高次構造制御 (Electrodeposition of nanocellulose for multiscale structuring)

助教 春日 貴章(産業科学研究所 自然材料機能化研究分野) KASUGA Takaaki (SANKEN (The Institute of Scientific and Industrial Research))

  • 理工情報系 (Science, Engineering and Information Sciences)
  • 産業科学研究所 (SANKEN (The Institute of Scientific and Industrial Research))

English Information

研究の概要

本研究では、電着技術を用いることで木材由来のナノ繊維であるセルロースナノファイバーを自在に配向・積層させることに成功した。木材由来のナノ繊維をはじめとする生体由来材料は、生体内では高いレベルで配向し、階層構造を形成することで生命の維持に必要な各種機能を実現している。しかし一度生体由来材料をばらばらにしてしまうと、人間の手で自由に並べ直す(配向させる)ことは容易ではない。通常得られる高次構造材料は物性に異方性のない均質材料となり、生物特有の配向階層構造が持つ特異な性質を再現することは困難である。
本研究では、水に分散したセルロースナノファイバーに電圧印加した際、陽極上にナノファイバーが任意の配向状態で固定される現象に着目し、配向性技術として応用することに成功した。配向状態は電圧の大小によって水平配向から垂直配向まで自在に制御可能であり、異なる配向状態を積層することも可能である。

研究の背景と結果

持続可能な社会の実現に向けて、生体由来の高分子材料の利用が進められている。中でも木材由来のナノ繊維であるセルロースナノファイバーは、原料の豊富さと機能性の高さ(軽量、高強度、高耐熱、他)から様々な分野への応用が期待されている。セルロースナノファイバーのような繊維(1次元)材料の利用において、繊維の配向状態は材料物性を決定する非常に重要な要素である。これまでに、電場・磁場や引張など様々な方法を用いた配向制御技術が開発されてきたが、生体組織のような複雑な配向階層構造を単純なプロセスで再現することは容易ではない。
本研究では、「電気泳動堆積」と呼ばれる現象を利用して、セルロースナノファイバーの面外配向を自在に制御し、配向階層構造を形成することに成功した。水中に分散したセルロースナノファイバーは負に帯電しており、分散液に陽極・陰極となる2本の電極を挿し込んで電圧を印加すると、負に帯電したナノファイバーが陽極に引き寄せられ、陽極上に堆積・固定される。電着条件と堆積後のナノファイバーハイドロゲルの構造を分析した結果、陽極上に堆積したナノファイバーが電圧の大小に応じて水平、ランダム、垂直配向状態で固定されることを発見した。
電圧制御という単純な操作でありながら、面外配向状態を自在に制御することが可能であり、様々な応用が期待できる。例えば、陽極上にマスクを設置した状態でセルロースナノファイバーを電着することで、配向ナノファイバーハイドロゲルをパターニングできる。また、電着の途中で電圧を変更することで、異なる配向状態で固定したナノファイバーを積層することも可能である。生体模倣や高次構造の精密制御を利用した機能性材料の開発が期待できる。また、配向による異方的な乾燥収縮現象を用いた成型加工技術への応用も可能であり、その可能性は多岐に渡る。詳細な配向メカニズムの解明は今後の課題だが、解明の暁にはセルロースナノファイバー以外のナノ材料や高分子材料への展開も考えられる。

研究の意義と将来展望

本技術を応用すれば、生体組織のような複雑な階層構造を簡単に再現することが可能となる。ナノ繊維のパターニングや、配向したナノ繊維ハイドロゲルの異方的な乾燥収縮を活かした立体成型など、多種多様な用途への展開が期待できる。

担当研究者

助教 春日 貴章(産業科学研究所 自然材料機能化研究分野)

キーワード

セルロースナノファイバー/配向制御/生物模倣

応用分野

機能性材料/医療・ヘルスケア

参考URL

http://tkasuga.com/
https://researchmap.jp/tkasuga

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2024(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。