研究 (Research)
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電子・荷電粒子周りの超高速電場計測 ~相対論的クーロン電場収縮を世界初実証~ (Ultrafast electric field measurements around electron and charged particle beam – First experimental demonstration of relativistic Coulomb electric field contraction -)
准教授 中嶋 誠(レーザー科学研究所) NAKAJIMA Makoto (Institute of Laser Engineering)
研究の概要
非線形光学効果の一つであるポッケルス効果を利用したEO(Electro-optic)サンプリングにより、フェムト秒・ピコ秒領域における電場の時空間分布計測が可能になり、電子線や荷電粒子周りに発生する電場分布をシングルショットで計測する技術を開発した。電子線や荷電粒子等の発生技術が高まる中、低繰り返しの電子線であっても、その電子線が作り出す電場の時空間分布を超高速領域において可視化できる技術を開発した。このことは、電子線自体の評価だけでなく、これまで観測できなかったピコ秒等の超高速時間領域におけるクーロン電場や放射電場等を直接実験的に確認できることを示した。今回観測されたクーロン電場の収縮現象は、特殊相対性理論で予想される基本的な現象であるが、その電場収縮過程を実験的に初めて観測することに成功した(図1, 図2、参照論文1, 2)。
研究の背景と結果
電子線・荷電粒子等の発生技術は急速に高まっており、ピコ秒やフェムト秒領域のパルス光源も開発されるようになっている。電子線露光技術としてナノテクノロジー・半導体産業への応用や、医療技術への応用、殺菌効果等を利用した食品業界への応用など、広い範囲での利用が展開されつつある。今回、我々は電子線加速器により発生した超短電子線パルスが作り出す電子線パルス近傍のクーロン電場の時空間分布をフェムト秒パルスレーザーによる EO サンプリング法という光学的な技術によって、可視化する手法を開発した。
エシェロンミラーという階段状のミラーを用いて、空間軸を時間軸として観測する手法を用いて、シングルショット2次元画像計測を実施した。停止している電子から生じるクーロン電場の分布は、図2左上に示すように球状に等方的に分布している。電子が高速に近い速度で運動するようになると、その電場分布は進行方向に垂直の向きに収縮するようになる(図2左下)。図2右は、その収縮したクーロン電場の時空間分布を観測した結果であり、100年以上も前にアインシュタインによって提唱された電磁気における特殊相対性理論の基本的事象の初めての実験的な検証である。この図で、電子線パルス(破線の楕円)は縦軸の0mm の位置を右方向に進んでおり、その電場は進行方向の垂直方向に広がっており、その電場の向きは上下で異なり電子線パルスの方向を向いている(色は電場の上下の向きに対応する)。横軸は時間軸で計測したものを空間軸に換算した距離となっている。
この図が示すように、光速に近い速度で伝搬する電子線パルスのクーロン場は垂直方向に収縮していることが確認された。この手法により、フェムト秒オーダーの時間分解能で電子線まわりの電場の分布を計測することが可能である。観測された電場より、電子線パルス自体の評価も可能である。EO サンプリングによる電場評価方法は、電子線・荷電粒子の評価やその電場の精密計測に利用可能なだけでなく、将来の核融合過程の評価にも利用可能であることを報告している [参照論文3]。
研究の意義と将来展望
電子線や荷電粒子は、今後応用等への展開が期待されており、医療だけでなく電子線露光技術や殺菌効果等を利用した展開など、応用への期待が高まっている。本研究成果では、アインシュタインが提唱した電磁気における特殊相対論の基本事項の実証をデモンストレーションしたものであるが、電子線等のパルス特性の評価にも利用でき、電子線等を応用展開する上での基本的なツールとして利用されることが期待される。
担当研究者
准教授 中嶋 誠(レーザー科学研究所)
キーワード
EOサンプリング/電子線パルス/テラヘルツ/クーロン電場収縮/特殊相対性理論
応用分野
ナノテクノロジー/医療・ヘルスケア/食品産業
参考URL
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2022/20221021_1
https://researchmap.jp/nakajimamakoto
参照論文
1. Ota, Masato; Nakajima, Makoto et al. Ultrafast visualization of an electric field under the Lorentz transformation. Nature Physics. 2022, 18, 1436-1440. doi: 10.1038/s41567-022-01767-w
2. Ota, Masato; Nakajima, Makoto et al. Longitudinal and transverse spatial beam profile measurement of relativistic electron bunch by electrooptic sampling. Applied Physics Express. 2021, 14, 026503. doi: 10.35848/1882-0786/abd867
3. Arikawa, Yasunobu; Nakajima, Makoto et al. The conceptual design of 1-ps time resolution neutron detector for fusion reaction history measurement at OMEGA and the National Ignition Facility. Review of Scientific Instruments. 2020, 91, 063304. doi: 10.1063/1.5143657