研究 (Research)
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先進電子材料・デバイス開発を支援するテラヘルツ波放射分光~現象論から定量分析まで~ (Terahertz Emission Spectroscopy for Development of Advanced Electronic Materials and Devices – From Phenomenology to Quantitative Analysis-)
教授 斗内 政吉(レーザー科学研究所) TONOUCHI Masayoshi (Institute of Laser Engineering)
研究の概要
フェムト秒レーザーを用いて物質中に光電荷を励起すると、電荷はその場から高速で移動します。その時空間移動に伴ってテラヘルツ電磁波が放射され、その現象を利用したテラヘルツ放射分光法が注目を集めています。我々は、その手法の開発に取り組むトップグループで、ナノ材料の時空間光電荷ダイナミクスなどを現象論的に明らかにすることから、半導体の具体的な物性値を非破壊非接触で抽出できる定量的分析手法としての確立まで、世界に先駆けて取り組んでいます。ここでは、その事例として、ナノチューブ内の光生成励起子の振舞いを解明した例とシリコンウェファーの表面ポテンシャルの値をウェファースケールでマッピングできることを紹介します。
研究の背景と結果
テラヘルツ放射分光法は、90年代から主に半導体物性評価に用いられ、我々が中心となって、その他の新規材料への適用をしてきました。最近ではスピン材料評価などにも用いられ、漸く “The 2023 terahertz science and technology roadmap”(J.Phys.D:Appl.Phys.)に 独立した章として報告されました。しかしながら、その分光法としての適用は、主に現象論的議論の補助に限定され、そこで我々は、より具体的な実応用分野への展開を目指し、様々な事例の抽出に取り組んできました。ここでは、2つ事例を紹介します。
一つは、現象論的議論に理論モデリングを加えることで、カーボンナノチューブにおける励起子と乖離後の自由電荷のダイナミクスを明らかにした例です。特にここでは、ナノチューブが配列した系とランダム系とを比較することで、前者では同一チューブ内を弾道的に伝導するが、後者ではチューブ間の接点が欠陥として働き、従来の自由電子のようにドリフトする描像が明らかにしました。このようなアプローチにより、先進的な材料・デバイス開発に大きく貢献する新しい分光手法となります。
もう一つの例として、シリコンウェファーの表面処理評価に適用しました。半導体工程において、表面処理は重要な項目です。例として、BHF(バッファードフッ化水素)溶液処理前、処理中、処理後に応じて、表面は酸化物、フッ素、水素で覆われます。その変化の間の表面ポテンシャルを、非破壊・非接触で定量的に、大面積で簡単に分析できることを明らかにしました。これまでのMOS構造・シリコン貫通電極・太陽電池評価などと合わせて、半導体R&D現場で実利用できるまで完成度をあげることができたと自負しています。
研究の意義と将来展望
先進材料・デバイスの開発は常に新しい分析手法の創製がブレークスルーをもたらします。私がテラヘルツ波放射顕微鏡(LTEM)と名付けたテラヘルツ波放射分光イメージング手法は、光励起された高速電荷の時空間移動を可視化する特徴を持っています。この手法を様々な現場で利用できることを証明することは、電子材料・デバイス・半導体産業の復興にブレークスルーにつながると確信しています。
我々の成果は、ロードマップにおける重要項目に取り上げられるまでになってきました。今後は、単に最先端電子材料・デバイスの開発に重要なイノベーションをもたらすのみならず、半導体R&D現場での利用を確実なものとして、大きなマーケットへの展開が期待されます。
担当研究者
教授 斗内 政吉(レーザー科学研究所)
キーワード
テラヘルツ波放射分光法/先進電子材料・デバイス開発支援/半導体R&D支援
応用分野
ナノ・先進電子材料開発支援/半導体工程管理検査技術/超高速光物性分析
参考URL
https://www.ile.osaka-u.ac.jp/research/THP/
https://researchmap.jp/read0051752