研究 (Research)

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二相ステンレス鋼の溶接熱影響部における孔食発生メカニズム (Initiation mechanism of pitting corrosion in weld heat affected zone of duplex stainless steel)

助教 Hou Yuyang(接合科学研究所 接合評価研究部門) YUYANG Hou (Joining and Welding Research Institute)

  • 理工情報系 (Science, Engineering and Information Sciences)
  • 接合科学研究所 (Joining and Welding Research Institute)

English Information

研究の概要

高能率埋もれアーク溶接による二相ステンレス鋼溶接部の耐孔食性を検討したところ、孔食は主に最高到達温度がフェライト単相域まで上昇する高温熱影響部(HT-HAZ)で発生し、そのほとんどは、フェライト相の (Ti,Cr)N 近傍から発生することがわかりました。
母材となる二相ステンレス鋼のチタン含有量が 50 ppm 以下であるにも関わらず、(Ti,Cr)N が析出し、この周囲に明確な Cr 欠乏層は認められないものの、(Ti,Cr)N 表面に不動態皮膜がほとんど形成されていないことが確認されました。
以上のことから、孔食は Cr 窒化物周囲に形成される Cr 欠乏層だけでなく、(Ti,Cr)N 表面の不動態皮膜の欠如によって引き起こされると考えられました。

研究の背景と結果

二相ステンレス鋼は、フェライトとオーステナイトの体積比が約 1:1 となるミクロ組織形態を呈し、耐食性、機械的性質、加工性、溶接性に優れています。そのため、海洋構造物、さまざまな化学プラントなど、重要な分野で数多くの用途があります。二相ステンレス鋼製品の製造において溶接は非常に重要な技術です。しかし、二相ステンレス鋼溶接部の熱影響部(HAZ)では、冷却速度が速いためフェライトが過剰となり、耐孔食性が低下しやすくなることが知られています。
これまで、二相ステンレス鋼の溶接部における孔食発生は、溶接特有の急峻な熱サイクル過程に伴う複雑な組織変化等に起因するため、その詳細は明らかになっていません。また、孔食の起点として析出物を対象とする解析はほとんどなく、析出物と耐孔食性の関係はいまだ不明確です。本研究では、高能率埋もれアーク溶接による二相ステンレス鋼の HAZに着目し、孔食発生起点近傍の濃度分布の詳細な測定により孔食の発生メカニズムを検討しました。
その結果、二相ステンレス鋼中に含まれる微量のチタンが、HAZ の高温側でチタンを含有する窒化物の析出を引き起こすことが明らかになりました。また、このようなチタンを含有する窒化物の表面では、不動態皮膜が欠乏しやすい傾向が認められました。この不動態皮膜の欠乏が、耐孔食性の劣化を誘発することが示唆されました。

研究の意義と将来展望

この研究により、二相ステンレス鋼溶接部の熱影響部における析出物が原因となる孔食発生の新たなメカニズムが明らかになりました。
この結果は、より高い耐孔食性を有する二相ステンレス鋼の成分設計および製造プロセスに関する新たな展望を与えると考えられます。
また、この研究は、二相ステンレス鋼製品の安全性の確保はもとより、より良い環境保護と省エネルギーへの貢献すると期待されます。

担当研究者

助教 Hou, Yuyang(接合科学研究所 接合評価研究部門)

キーワード

溶接・接合/冶金/ミクロ組織/腐食/欠陥

応用分野

海洋構造物/化学プラント

参考URL

https://researchmap.jp/houyyjwri

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2024(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。