研究 (Research)

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多元素を等比モルでドープしたナノシートの合成と機能 (Synthesis and function of nanosheets doped with multi-elements in equal molarity)

教授 阿部 浩也、特任研究員 李 飛(接合科学研究所) ABE Hiroya , LI Fei (Joining and Welding Research Institute)

  • 理工情報系 (Science, Engineering and Information Sciences)
  • 接合科学研究所 (Joining and Welding Research Institute)

English Information

研究の概要

染料による水質汚染は環境問題の一つである。吸着技術は廃水処理に広く用いられている。この研究ではハイエントロピーの概念を用いて、水からの染料の迅速な除去を実現する表面欠陥水酸化物シートを設計した(図1)。
Mn、Fe、Co、Ni、Zn の5種類の遷移金属陽イオンを含む多元素水酸化物をボトムアップポリオールプロセスによって合成することに成功した。陽イオン数が増大するにつれて、水酸化物のナノシートの厚さは減少し、表面欠陥の程度は増加した。これらの表面欠陥は、アニオン性染料吸着の活性部位であることが証明された。これらの多元素水酸化物ナノシートは、酸素発生反応の電極触媒としても有望であった。

研究の背景と結果

近年、ハイエントロピー合金に代表されるように、多元素の高い混合状態を機能発現の要素とする材料開発が進んでいる。例えば、ハイエントロピー合金は5種類の金属元素を等モル量含有する多元素固溶体であり、元素の組み合わせにより優れた力学的性質を発現する。この概念は非金属系にも適用されている。例えば、酸化物へも拡張されている。HE 酸化物は5種類以上の異なる単純酸化物を等比モルで混合し、その後高温焼成することで得られ、蛍石やスピネルなど、対称性の高い結晶構造を有する。一般に多元素物質の合成にはは自由エネルギーのエントロピー項が大きくなる高温が使用される。
最近、材料表面の「多元素の高い混合状態」と機能発現に興味が集まっている。触媒能の著しい向上など、グリーン社会に資する機能発現が期待されているためである。そのためには表面応用に適した形態、すなわち2次元ナノ材料化が必要になる。しかし、高温を用いる範囲内では、粒成長が免れないため難しい。こうした中、本研究では溶液を反応場とするボトムアップ合成法にて、5種類の3d 遷移金属イオンを陽イオンサイトに等モルでほぼ均質に分布した水酸化物の多元素ナノシート(シート厚さ約2nm)の合成に成功した(図2)。
ナノシートとは厚み方向がナノサイズで横方向がその数百倍以上という形状異方性を持ち、高い表面積/体積比を有する。この多元素水酸化物ナノシートは、廃水からアニオン性染料(例えば、コンゴレッド)を吸着することができ、市販の活性炭よりも2桁高い吸着速度を持つ。陽イオン数が増大するにつれて、水酸化物のナノシートの厚さは減少し、表面欠陥の程度は増加した。
これらの表面欠陥は、アニオン性染料吸着の活性部位であることが証明された。これらの欠陥は、酸素発生反応を触媒する活性サイトにもなり、1.0 M KOH 電解液中、電流密度10 mA cm-2で298 mV の過電圧を示した。

研究の意義と将来展望

二次元ナノ材料のハイエントロピー化は電子構造と欠陥を調節するための魅力的なアプローチである。このアプローチは新しい機能設計につながる可能性を有する。

担当研究者

教授 阿部 浩也、特任研究員 李 飛(接合科学研究所)

キーワード

多元素/化合物/環境

応用分野

触媒/水質浄化/等

参考URL

http://www.jwri.osaka-u.ac.jp/research/research04_5.html
https://researchmap.jp/read0101989

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2024(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。