研究 (Research)
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アフリカの教育開発と国際協力―SDGs時代にみる教育の普遍化と格差 (Educational development and international cooperation in sub-Saharan Africa:Educational universalization and inequalities in the era of SDGs)
教授 澤村 信英(人間科学研究科 グローバル共生学講座) SAWAMURA Nobuhide (Graduate School of Human Sciences)
研究の概要
持続可能な開発目標(SDGs)は、2030年までに世界で達成すべき目標であり、教育に関しては、すべての人々に包摂的かつ公正で質の高い教育を提供することがうたわれている。この達成に向けて、アフリカをはじめとする発展途上国において、量的な教育の拡大が進むなかで、質的な側面を捉えれば、逆に国家間あるいは国内での格差が広がっている。
本研究の目的は、アフリカの多様な社会において、教育の普遍化へ向けた国際的な動きのなかで、教育と格差をめぐって、いかなる課題があるのかを明らかにすることである。困難な状況にある一人ひとりのリアリティを把握するため、フィールド研究を中心としつつ(写真1)、国際比較から格差を多面的に捉えなおすことも試みている。
研究の背景と結果
2000年以降、世界の不就学児童数は大幅に減少しているが、近年は逆に増加する傾向にある。特にアフリカ地域には低所得国が集中し、さらに人口増加率が高いことも関係する。また、当初は学校を増やすなど教育を供給する側の対応が効果を表すが、その後は需要側の子どもを持つ家庭の問題、あるいは社会全体の問題などが複雑に関わってくることから、就学が容易に促進されないこともある。子どもを学校へ送らない、送れない理由は、国や地域により実にさまざまである。
SDGs にある「質の高い教育」を一つ取っても、何をもって質であるのかは判然としない。特にアフリカ諸国では、成果が見えやすい量的な拡大が最優先され、教育の質に対する改善が後回しになってきた。また、国別の教育指標だけを見ていては、国内の重大な格差に気づきにくい。この格差は、普遍化の影に隠されてきた場合もあるであろうし、普遍化が進むがために増幅されていることもあるかもしれない。普遍化が進めば進むほど、質的な面を考慮すれば、格差は包み隠されながら、拡大している可能性がある。
アフリカ数か国を対象とした事例研究により、格差がいかに発生しているのか、どのような是正策が試みられているかを検討した。そこで起こっている教育格差の問題の多くは、植民地時代や、それに続く援助機関の影響が大きい。多くのアフリカ諸国は、1960年代前半に独立を達成している。植民地時代の影響としては、公用語や教授言語の問題は大きいが、それだけではなく教育システム全体に浸潤している。これは、独立から60年を経た現在において温存されているというより、欧米流あるいは世界で標準化される教育が正しいものとして、援助や国際交流を通じて、さらに強化されていると見ることもできる。アフリカ諸国間の伝統的な相互依存的、互恵的な関係性のなかで、欧米やアジアとも一線を画した、異なりながらも協調的な発展のあり方を探索することが解決策の一つかもしれない。
研究の意義と将来展望
本研究は、教育をめぐる格差の実態や格差の是正、縮減に向けての取り組みについて、当事者性をもって理解するため、人々の生活感を共有しながら(写真2)、現地で得たデータを駆使して、教育の普遍化へ向けた格差の実態を描き出そうとするところに特徴がある。SDGsを無批判に受け入れるのではなく、これらの目標達成に向けて各国、各地域で起こっている現象をローカルな文脈で読み解こうとするものである。文化の異なる地域に入り込み、現地の人々との長期にわたる交流を続け、今後、日本へもフィードバックできるような研究を続けていきたい。
担当研究者
教授 澤村 信英(人間科学研究科 グローバル共生学講座)
キーワード
開発援助/国際協力/教育/発展途上国/アフリカ
応用分野
国際開発/比較教育/アフリカ
参考URL
https://ic.hus.osaka-u.ac.jp/
https://researchmap.jp/read0058549