研究 (Research)
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大都市圏への集積と少子化の進展 (Agglomeration in large metropolitan areas and a progress of fertility decline)
教授 山本 和博(経済学研究科 経済学専攻) YAMAMOTO Kazuhiro (Graduate School of Economics)
研究の概要
2023年現在、日本の都道府県で合計特殊出生率が最も低いのは東京都であり、最も高いのは沖縄県である。一般に、出生率は人口密度の高い都市部で低くなり、人口密度の低い地方で高くなる傾向がある。
本研究では、このような現象の原因を理論的に解明することを目的にしている。また、少子化が社会にどのような影響を与えるのか、特に大都市圏と地方の間の人口の分布にどのような影響を与えるのか、理論的に解明する。
研究の背景と結果
東京都市圏は人口約3500万人を抱える世界有数の巨大都市圏である。しかし、この巨大都市圏は人口を吸収してはいるが、再生産はしていない。日本では地方の出生率の方が都市圏の出生率よりも高い状態が長く続いているので、地方で生まれた人口の多くが東京を始めとした都市圏に移動し、移動した人数より少ない数の子供しか生み出していないのである。
つまり、日本の都市化とは、東京都市圏の少子化であると言い換えても良いのである。大都市圏で少子化が進む原因には様々なことが考えられるが、本研究が注目しているのは、大都市圏における消費財の多様性の影響である。大都市圏は多くの人口が存在することで消費財の巨大な市場が生まれている。巨大な市場には多くの企業が集まって来る。
多くの企業が集まった地域では、様々な種類の消費財が手に入る。東京や大阪では、他の地域では見られないような様々な料理を提供する飲食店が見られるし、ヨガ、フィットネス、ダンス等の教室など、多くのレジャー施設が存在する。こういった多様な消費財は、その地域における所得の価値を上げる。同じ所得でも様々な消費財が手に入るので、所得から得られる満足度が上がるからだ。すると、大都市圏に住む人々は多くの所得を稼ごうとするだろう。具体的には、働く時間をなるべく長くしようとし始めるのである。働く時間を減らそうとすると、犠牲になるのは家事の時間と育児の時間である。結婚すると、家事時間が長くなることを予想した人々は、結婚を遅くすること、または回避することで働く時間を確保しようとする。また、子供が生まれると、多くの時間を育児に割かざるを得ないことを予想した人々は、子供の数を減らすことで仕事の時間を確保しようとするだろう。
こういった行動の結果、大都市圏では結婚と子供の数が減るのである。多くの企業が集まる大都市圏では、必然的に結婚と子供の数が減るのである。
研究の意義と将来展望
ほぼ全ての先進国では少子化が進んでいるが、中でも日本では世界に類を見ないスピードで少子化が進んでいる。少子化の進展は社会に様々な影響をもたらす。将来懸念される年金財源の不足、労働力の減少、消費財市場の縮小とそれに伴う日本からの多くの企業の撤退、これらは数ある問題の内のごく一部に過ぎない。
また、少子化はそれが発生するメカニズムがとても複雑である。先進国における教育費用の高騰、賃金の上昇に伴う子育てをすることで失う時間の価値の上昇、消費財の多様化による結婚の相対的価値の低下、これらもまた、少子化の原因のごく一部である。本研究は少子化の原因、影響の内、大都市圏における少子化の進展の原因を解明し、さらに大都市圏と地方の間の人口分布に対する影響を明らかにする。
担当研究者
教授 山本 和博(経済学研究科 経済学専攻)
キーワード
少子化/集積/消費財の多様性
応用分野
大都市/出生率/応用経済学