研究 (Research)
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経済成長メカニズムのモデル化とシミュレーション
教授 堀井 亮(社会経済研究所)
研究の概要
長期の経済成長がどのようにして実現するのか、そのメカニズムを研究しています。短期には、需要の増減で経済成長率は上がったり下がったりします。しかし、アメリカなど他の先進国や、1990年以前の日本のように長期に成長を続けるには、技術進歩が不可欠です。私の研究では、技術進歩とは何か、技術進歩がどのようなメカニズムで発生するのか、それがどのように GDP 成長率につながっていくのかを理論モデルを用いて明らかにし、政策シミュレーションも行っています。
研究の背景と結果
日本の経済成長は、過去30年間他の先進国に大きく後れを取っています。アメリカやイギリスでは産業革命以降2世紀近くにわたって、一人当たり GDP は約2%弱の安定した速度で増加してきました。一方、日本やアルゼンチンのように、ある時点までは成長が好調だったのに、その後成長が止まった国もあります。つまり、経済成長は自動的に起こるものではなく、何らかの理由があって初めて起こるものなのです。そして、持続的に成長しているかどうかにより、数十年後には倍以上の所得格差が発生します。
設備投資による量的拡大、つまり資本蓄積による成長には限界があります。設備だけ増やしても、いずれ減価償却コストが収益を上回るからです。従って成長を長期的に維持するには、技術進歩が不可欠です。技術進歩とは、生産で使用する設備や労働者の量が変わらないのに、その生産量や質が前年より増える場合を言います。技術進歩のためには、研究開発によるイノベーション、新製品の開発、さらには新しい技術を使いこなす人材(人的資本)が必要になります。また、新しい産業の創出、同時に旧産業の淘汰も避けられません。
このプロセスをモデル化し、どのような要因で成長が促進されたり、あるいは阻害されたりするかを分析しています。これまでの研究では、教育・労働市場の摩擦、所得格差、環境悪化など、様々な要因によって成⻑が止まってしまう「成長の罠」が発⽣することを示しました。そのような問題は、経済政策により緩和することも、悪化する場合もあります。経済成⻑と温暖化・⾃然災害の相互関連を分析した論⽂では、環境税(炭素税)をどのように変化させていけば将来の成長と環境維持を両立できるかを明らかにしました。現在は、ロボット・AI など様々タイプの技術進歩が労働分配率に与える影響、限りある資源で成長は可能かという問題、限られた政府の財政状況下で公的な研究開発補助をどのような規模で進めるべきかと言う問題にも取り組んでいます。
研究の意義と将来展望
日本が直面している多くの問題の根底には、日本がうまく成長できていないという事実があります。給与がそれほど増えない中、輸入品や海外の原料を用いた食品や生活必需品が値上がりや小サイズ化し、生活が苦しくなるいう状況も、日本の一人当たり GDP の実質値が他の国に比較して伸びていないことを反映しています。CO2削減などグリーン化で日本が欧州より出遅れているのも、成長の停滞と相互依存関係にあります。少子化の背景にも低成長により若年層の所得が伸びていない要因があります。
企業や研究機関によるイノベーションが、長期的にそのような問題の解決や緩和にどのように効果を持つかを明らかにし、国による研究開発支援のための政策形成にも寄与したいと考えています。
担当研究者
教授 堀井 亮(社会経済研究所)
キーワード
経済成長/技術進歩/イノベーション/政策
応用分野
イノベーション/経済政策
参考URL
https://www.iser.osaka-u.ac.jp/faculty/horii.html
https://researchmap.jp/horii