研究 (Research)
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「記号過程」という視点から人間のコミュニケーションを探究する (Exploring human communication from the perspective of “semiosis”)
准教授 榎本 剛士(人文学研究科 言語文化学専攻) ENOMOTO Takeshi (Graduate School of Humanities)
研究の概要
コミュニケーションはその全体像を描くことが非常に難しい事象です。私の研究は次の三点を中心に据えることで、これにチャレンジしています。(1)記号論に依拠して「類似性」「隣接関係」「社会的慣習」に基づく「指し示し」の三様態に着目し、(2)そのような記号的様態によって媒介される「生起する記号とそれを取り巻き包含するコンテクストの相互作用」としてコミュニケーションを捉えつつ、(3)人間のコミュニケーションはまずもって社会的な営為であり、アイデンティティや権力関係と密接に関わっている、と考える。
このようなアプローチをとることで、一見したところ大きく異なるコミュニケーションの諸側面を統一的な枠組みで扱える可能性が拓けてきます。
研究の背景と結果
現在、大きく分けて二つの(共同)研究に取り組んでいます。一つ目は、「マルチモーダル記号論」の構築です。コミュニケーションの中で、私たちは言語だけでなく、相手の体の向き、頭・手・足の動き、指さしといった身振りにも反応しています。こうした身振りに私たちが反応するのは、それらが進行中のコミュニケーションに関連する何かを指し示して(指標して)おり、私たちがその指標を実際に読み取っているからに他なりません。つまり、コミュニケーションにおいては、言語や身体動作を含む様々な記号、そして、それらに媒介されながら関連づけられる様々な文脈的要素(コンテクスト)がいわば「渾然一体」となって、様々な解釈が生み出されていると考えられます。こうした視座に立ち、(一部)注釈がついた映像データを細かく見ながら、身体動作の共起・連鎖を支えている記号的な媒介プロセスを解明する研究を行っています。
二つ目は、言語教育(特に日本の英語教育)の場でどのようなコミュニケーションが行われ、そこにどのようなアイデンティティや権力関係、イデオロギーが関わっているかを明らかにする研究です。社会の中で私たちは言語を使うだけでなく、「英語はグローバル言語である」などといった、言語についての考え(言語イデオロギー)を持っています。また、学校など、言語教育が起こる(しばしば制度的な)場所には、その場所に特有の社会的規範・役割・非対称的関係があり、言語の学習は常にこれらの中に埋め込まれています。言語の教育が、言語やコミュニケーションに関するどのような価値観を再生産しているのか、教師や学習者たちはそれをどのように内面化したり突き放したりしているのか、そして、そのような行為自体がどのようなコンテクストの強化や変容をもたらすのか、といった問題に取り組みながら、批判的な言語意識を育む教育実践を支える研究を進めています。
研究の意義と将来展望
ここに紹介した研究は、言語や身体動作から社会的諸関係まで、人間のコミュニケーションを構成する要素はどのように結びついているのか、それを可能にしているプロセスは何か、という問いに一貫して導かれています。
今日、大量のデータに基づく高度な統計的分析が可能となっていますが、私の研究の意義は、そのような分析からこぼれ落ちてしまいがちな部分にも光を当てようとする点にあります。パターンの特定とコンテクストの多様性、両者を射程に収めたコミュニケーション研究を目指しながら、社会への貢献を果たしていきたいと思います。
担当研究者
准教授 榎本 剛士(人文学研究科 言語文化学専攻)
キーワード
記号過程/コミュニケーション/コンテクスト/言語イデオロギー
応用分野
コミュニケーション/教育
参考URL
https://research.nii.ac.jp/EmSemi/index.html
https://researchmap.jp/t-enomoto