研究 (Research)

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大規模社会調査の継続と調査モードの転換 (Continuous practice and mode transformation of nation-wide time series social surveys)

教授 吉川 徹(人間科学研究科 社会環境学講座) KIKKAWA Toru (Graduate School of Human Sciences)

  • 人文学社会科学系 (Humanities and Social Sciences)
  • 人間科学研究科・人間科学部 (Graduate School of Human Sciences, School of Human Sciences)

English Information

研究の概要

社会学や世論研究における継続社会調査は、日本社会の姿とその変化について有用なエビデンスを提供してきた。しかし世代交代と時代変化に伴って、人びとの生活構造が変化し、その有効回収率は漸減傾向にある。他方で、コロナ禍による非対面コミュニケーションの普及、政府による DX 化の推進という情勢変化があり、社会調査の実査モードのデジタル化の要請が高まっている。
わたしたちの研究 (SSP プロジェクト ) では、現代日本人の格差と社会意識の実態を大規模社会調査によって把握し、時点間の比較を行っている。そこでは、調査票への記入というアナログモードで実施されてきた継続調査をシームレスにウェブ回収に移行することを目指し、さまざまな試行調査や大規模調査を実施してきた。

研究の背景と結果

社会科学の領域では、様々なログや記録などのビッグデータの利用が盛んになっている。その一方で、正確な方法で大規模社会調査を実施することの意義は、今後も損なわれることはない。日本の学術社会調査は、①厳密な調査対象者設計、②機能的な質問項目の開発と継続、③正確な回答を得る調査モード、④時点間比較データの継続性という点において、国際的にみて極めて高い水準を維持してきた。この方法による調査が、政府や公益団体などによって60年以上継続されてきたことにより、幅広い世代の複数時点での調査データが蓄積されている。
現在の課題は、この研究蓄積を生かしつつ、この先においても正確な調査回答を得る方法を確立し、社会調査の継続可能性を維持することである。そのためには、個別訪問面接や郵送・留置などのペーパー&ペンシルモードによる調査票調査を、比較可能性を損なわない形で電子媒体による調査に移行することが求められる。
わたしたちの研究グループは、2015年にタブレット PC による訪問調査を実施し、電子デバイスを用いた回答収集が、従来の調査票調査との比較可能性をもつことを確認した。これを橋渡しとして、2022年にはランダムサンプリングの全国調査では初のウェブ調査を主たる回収方法とした SSP2022調査を実施した。そしてこの調査データの解析により、継続調査のモードを調査票からウェブ回答に移行する道筋を見出している。
社会学研究の成果としては、一億総中流といわれた1980年代から、総格差社会といわれる2020年代までの日本社会の変化を、時点間比較分析によって明らかにして、ポスト産業化期の社会構造の変化が人びとの社会意識をどう変えていったのかを論じている。

研究の意義と将来展望

専門調査機関が実施するいわゆるインターネット調査では、対象者パネルを利用して回答を得る非確率抽出法が用いられる。しかし公的調査や学術調査の継続には、行政リストからの無作為抽出が必須となる。
そこで無作為に抽出された対象者を直接対人接触を伴わないウェブ調査に誘導する方法を確立し、その同質性を確証する必要がある。わたしたちは、慎重に調査方法の橋渡しを行い、従来のアナログ調査と同質のウェブ調査の実施方法を確立した。
これにより世論や社会意識、そして社会階層構造の20世紀からの変化のトレンドの間断のない把握が可能になった。この転換が、学術社会調査に限らず政府調査や市場調査、世論調査のスタンダードな調査モードとして普及することが展望される。

担当研究者

教授 吉川 徹(人間科学研究科 社会環境学講座)

キーワード

格差社会/ウェブ調査/世論

応用分野

世論調査/日本社会/社会変動

参考URL

https://ssp.hus.osaka-u.ac.jp/
https://researchmap.jp/read0185055

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2024(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。