研究 (Research)

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気候変動、インフラストラクチャー、消費生活についての人類学的研究

教授 森田 敦郎(人間科学研究科 基礎人間科学講座)

  • 人文学社会科学系 (Humanities and Social Sciences)
  • 人間科学研究科・人間科学部 (Graduate School of Human Sciences, School of Human Sciences)

研究の概要

現代社会における消費生活は、電力システム、流通システム、交通網、インターネットなどの大規模な技術システム(インフラストラクチャー、以下「インフラ」と略)を介して、気候変動をはじめとする地球規模での環境負荷を生み出している。本研究はその過程を明らかにし、代替的なインフラのあり方を模索する試みである。

研究の背景と結果

IPCC によれば温室効果ガスの削減目標を達成するためには、エネルギーおよび物質的な消費の削減が不可欠である。最新の第6次報告書は、インフラが消費生活と温室効果ガス排出を結びつける役割を果たしていると指摘している。これによれば、生活で消費されるのは食事や移動、快適な住環境といったサービスであり、そのサービスを提供するためには必ずしもインフラを必要としない(食料を自給したり近隣の農家から購入する、徒歩や自転車で通勤する、断熱した住居に住むなど)。だが、近代化の中で、これらのサービスの多くはエネルギー集約的なインフラへの依存を深めていった。これを踏まえ、同報告書は、インフラとサービスの関係を再構築すれば、生活水準を下げることなくエネルギーと資源の消費を大幅に削減することが可能であると指摘している。
本研究では、IPCC のこの勧告の背後にある科学技術論、人類学、社会学の研究に依拠しながら、消費生活とインフラの関係を概念化し、より環境負荷の小さな関係性を模索することを目指している。具体的には居住に焦点を当てる。住居の建築および改修は建築材料の生産と流通、廃棄を通して多大な温室効果ガスを排出している。またその後の居住は、生活家電や暖房などによってコンスタントにエネルギーを消費する。本研究では住居の建築・改修およびその中での生活(家事、暖房、食事など)が埋め込まれている流通、生産、エネルギーのインフラと、日常生活の中で経験されるサービスと快適さの結びつきを明らかにし、エネルギーと資源の消費を削減するための両者の間の新たな関係を模索する。また、そのために、消費とインフラの関係の現状を記述する社会調査の手法に加えて、変化をもたらす可能性を探るためのプロトタイピングやデザイン・リサーチを取り入れた新たな研究手法の開発を行っている。

研究の意義と将来展望

気候と環境の危機が深まる中、世界各国は2050年までに温室効果ガス排出ゼロの達成を目指している。そのためには、産業部門のみならず現代の日常生活の核をなす消費生活の全面的な変革が不可欠である。消費と産業、環境負荷を結びつけるインフラの役割の研究は、この全面的な変革の鍵を握っている。インフラは、エネルギー、資源、製品、食料、情報などを流通させることによって現代の生活を支えている。
一方でインフラの発展は、かつては地産地消を通して地域の生態系と結びついていた人々の消費生活を集約し、世界規模でのエネルギーと物質の流通を作り出してきた。その中で、衣食住といった基本的な需要の環境負荷も急増していった。この流れを逆転し、環境負荷と温室効果ガスを大幅に削減するためには、消費生活と世界規模のエネルギーと物質の流れを媒介するインフラの役割の解明が不可欠である。

担当研究者

教授 森田 敦郎(人間科学研究科 基礎人間科学講座)

キーワード

気候変動/人新世/インフラストラクチャー/トランジション/環境負荷

応用分野

CO2排出削減/トランジション・デザイン

参考URL

https://stc-unit.jp
https://researchmap.jp/atsuromorita

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2024(未来社会共創を目指す)より抜粋したものです。