研究 (Research)
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長寿命プラズマ細胞の同定と分化経路の解明 (Identification and developmental regulation of long-lived plasma cells )
教授 伊勢 渉(感染症総合教育研究拠点 生体応答学チーム)
研究の概要
ワクチンの持続効果は、中和抗体を産生するプラズマ細胞の寿命に依存していると考えられている。しかしプラズマ細胞の生存を追跡する方法がこれまで存在しなかったために、“ 長寿命” プラズマ細胞の実態は明らかにされていなかった。我々はマウスプラズマ細胞の生存を追跡可能な「タイムスタンプ」実験系を新たに樹立し、その生存を1年にわたって解析した。そして長寿命プラズマ細胞を識別可能なマーカー、長寿命プラズマ細胞の分化経路、生存場所を明らかにした。また長寿プラズマ細胞は骨髄内生存ニッチで静止していることを見出した。本研究の成果により長寿命プラズマ細胞を効率よく誘導するワクチンの開発が期待される。
研究の背景と結果
ワクチンで誘導される中和抗体は、ウイルス感染からの防御に必須の働きをする。抗体の半減期は数日から数週間であるが、感染・ワクチン接種後に抗体応答は数か月から数年、時に数十年に渡って持続する。これはリンパ組織で誕生したプラズマ細胞の一部が骨髄、腸管などの生存ニッチに移動し、長期に渡って生存するからだと考えられている。しかしこれまでプラズマ細胞の生存を追跡可能な実験系が存在しなかったために、プラズマ細胞の生存制御に関する研究は進展していなかった。
私達の研究グループでは、マウスのプラズマ細胞を誘導性に蛍光色素でラベルし、その生存を追跡できる、「タイムスタンプ」実験系を開発することに成功した。この実験系を用いて、マウスプラズマ細胞の生存を1年に渡って追跡したところ、誕生してすぐのプラズマ細胞はB220hiMHC-IIhiという表現型を示し、大部分は死滅してしまうのに対し、その一部はB220loMHC-IIlo という表現型に変化し、長寿命を獲得することが明らかとなった。このような長寿命プラズマ細胞は、骨髄、脾臓、小腸粘膜固有層で検出されたが、骨髄における生存率が最も高いことが判明した。従来、長寿命プラズマ細胞は胚中心を経て形成された高親和性のものと考えられていた。実際、免疫によって誘導された骨髄プラズマ細胞の大部分は胚中心由来のものであることが確認できた。
一方、胚中心を経由せずに誕生した低親和性プラズマ細胞も骨髄内に到達すると、高親和性プラズマ細胞と同じ半減期で長期生存可能であることが初めて明らかになった。最後に二光子顕微鏡を用いた骨髄内プラズマ細胞のライブイメージング解析を行った結果、この B220loMHC-IIlo という長寿命プラズマ細胞は、 B220hiMHC-IIhi 短寿命プラズマ細胞とは異なり、骨髄内で静止した状態で生存していることも明らかとなり、生存ニッチとの結合性の強さが寿命を規定している可能性が示唆された。
研究の意義と将来展望
本研究により、これまで不明であった長寿命プラズマ細胞の実態、つまりそのマーカー、分化経路、生存場所などが明らかとなり、今後その誘導メカニズムを詳細に解き明かすことが可能となった。長寿命プラズマ細胞の効率的な誘導を介して効果が持続するワクチンの開発が期待される。
担当研究者
教授 伊勢 渉(感染症総合教育研究拠点 生体応答学チーム)
キーワード
抗体/ワクチン/プラズマ細胞/感染症
応用分野
医療・ヘルスケア/創薬
参考URL
https://researchmap.jp/wataruise
https://sites.google.com/cider.osaka-u.ac.jp/iselab