研究 (Research)
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前立腺がんの発生と進展における環境因子の影響に関する研究
波多野 浩士・野々村 祝夫(医学系研究科)
取組要旨
前立腺がんは男性における主な死因の1つである。2018年時点において全世界で年間約36万人が前立腺がんのために死亡しており、2040年には年間74万人が前立腺がんのために死亡すると予測されている。前立腺がんの発生および進展には遺伝的素因に加えて環境因子が大きく関与しており、前立腺がんを予防することは世界的な重要課題である。当教室では、環境因子が前立腺の慢性炎症を介して発がんを惹起することを発見し、メカニズムの解明に取り組んできた。がん抑制遺伝子であるPtenを前立腺特異的にノックアウトした前立腺がんモデルマウスを樹立し基礎研究を行った。高脂肪食を摂取したマウスは前立腺局所の慢性炎症が惹起され、MDSC(myeloid-derived suppressor cell)やM2マクロファージなどの免疫細胞を介して前立腺がんが進展した。人の腸内には約100兆の細菌が生息しており、環境因子による腸内細菌叢の変化は発がんを含めた人の健康に影響を及ぼす。高脂肪食摂取マウスに抗生剤を投与して腸内細菌叢への介入を行ったところ、細菌代謝物の変化を介して前立腺がんの進展が抑制された。食生活や腸内細菌叢を含めた環境因子に着目してさらに研究を行い、前立腺がんに対する新たながん予防戦略の確立を目指す。
研究成果・インパクト
人生100年時代の到来をむかえ高齢化がすすむなか、今後ますます前立腺がんの罹患数および死亡数が上昇することが世界的に懸念されている。前立腺癌の治療のために新規の薬剤や治療法が次々に開発されているが、医療費の増大が問題となり治療による副作用も懸念される。また、高額な新規治療による恩恵を享受できるかどうかは、地域格差や所得格差によるところが大きく、人や国の不平等につながる。このような問題点を解決するために、がん予防は非常に重要な研究課題である。環境因子による前立腺がんの発がん・進展メカニズムの解明することで、新たながん予防戦略を確立し、すべての人が健康長寿を享受できる社会作りを目指したい。
担当研究者
波多野 浩士、野々村 祝夫(医学系研究科)
キーワード
前立腺癌、環境因子、食生活、腸内細菌叢
応用分野
医学