研究 (Research)
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抗体の基礎研究からワクチン開発への貢献
黒﨑 知博(免疫学フロンティア研究センター)
取組要旨
2020年は新型コロナウイルスが世界を席巻した年だった。感染症予防にはワクチンが有効であることが歴史的に証明されてきたが、今のところ新型コロナウイルスに対するワクチンは開発段階であり、たとえ開発できたとしても、今後予想されるウイルスの変異や新たなウイルスの出現に備えていかなくてはならない。そこで、ワクチンの基本原理に大きく関わる免疫学、特に抗体産生細胞の基礎研究は重要である。
ワクチン療法は、細菌・ウイルスなどの2度目の侵入時に、1度目の感染時にできた記憶B細胞が素早く抗体産生細胞(プラズマ細胞)に分化し、効果的に抗原をブロック・除去することを利用する。免疫学フロンティア研究センターの黒﨑知博特任教授(常勤)のグループは、ワクチン療法の中心を担う記憶B細胞が、より効率的に分化誘導されるメカニズムを明らかにした。すなわち、より代謝活性が低く、かつB細胞受容体からの生存シグナルをより多く獲得した胚中心B細胞が記憶B細胞に効率的に分化する。同グループは、胚中心B細胞を低代謝状態に抑えるために重要な因子Bach2も同定した(図)。
研究成果・インパクト
黒﨑特任教授(常勤)らによる記憶B細胞分化メカニズムの解明は、「現行のワクチンではなぜ変異ウイルスに対する有効な記憶B細胞を誘導できず、毎年のワクチン接種が強いられるのか?」といった問いに答えるための基盤的データを提供するものである。これはコロナウイルスやインフルエンザウイルスに限定されるものではなく、すべての革新的なワクチン開発・感染症対策につながる可能性がある。「いのちをまもる」「いのちをつなぐ」といった言葉に代表される「すべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する」というSDGsの目標にも合致する。
担当研究者
黒﨑知博 (免疫学フロンティア研究センター)
キーワード
抗体産生、B細胞、メモリー細胞、免疫記憶、ワクチン
応用分野
感染症対策としてのワクチン開発