研究 (Research)

最終更新日:

新型コロナウイルス感染性肺炎の重症化のしくみを解明

岸本 忠三(免疫学フロンティア研究センター)

  • 全学・学際など (University-wide, Interdisciplinary, etc.)
  • 免疫学フロンティア研究センター (Immunology Frontier Research Center)

取組要旨

2020年、世界中に蔓延する新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) とそれに起因する肺炎の重症化は人類の健康・福祉にとって克服すべき大きな課題である。この肺炎の重症化には炎症性サイトカイン IL-6が関与しており、その機構を免疫学の立場から解明するのは重要と考えられる。大阪大学免疫学フロンティア研究センターの岸本 忠三特任教授らの研究グループは、新型コロナウイルス感染により早期にIL-6が血中に増加し、このIL-6が血管から血液凝固を促進する分子Plasminogen Activator Inhibitor-1 (PAI-1) を放出させることを発見した。COVID-19患者のPAI-1レベルは、細菌性敗血症または重症熱傷の患者に匹敵する高さであった。このことが、肺をはじめとする多くの臓器で血栓を作らせ、血管から液性成分を漏出させ、炎症の重症化につながることを突き止めた。こうした炎症は、IL-6の働きをブロックする抗体医薬品アクテムラ©(一般名:トシリズマブ)により抑えられた(図)。

研究成果・インパクト

多くの疾病の治療薬が、作用機序は不明ながら、たまたま効くからという理由で使われてきた。岸本特任教授らによるCOVID-19の炎症メカニズムの解明は、病気の根源に立ち返り、「なぜこの感染症で肺の炎症が急速に進むのか?」という問いに回答を与えるものだ。病気の正体が明らかになることで治療法の確立や既存の薬品の転用もエビデンスをもって主張できる。これは免疫学の基礎研究が革新的で効率的な治療法確立につながる可能性を示している。「すべての人々の健康的な生活を確保する」というSDGsの目標にも合致する。

担当研究者

岸本忠三 (免疫学フロンティア研究センター)

備考

アクテムラのような既存の医薬品がCOVID-19の炎症治療に使用できるなら、新たな薬品の開発にかかる時間やエネルギーを大幅に節約できる。このことは、SDGsの目標09に掲げる産業・技術革新、目標13に掲げる気候変動への対策にも通じる。

キーワード

IL-6、サイトカインストーム、トシリズマブ、COVID-19、炎症

応用分野

COVID-19 治療薬の探索