研究 (Research)
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実験研究を通じたマクロ経済学の再考 (Rethinking macroeconomics through experimental analyses)
教授 花木 伸行 (社会経済研究所 附属行動経済学研究センター) HANAKI Nobuyuki(Institute of Social and Economic Research)
研究の概要
本研究は、実験・行動経済学がミクロレベルで明らかにしてきた人間の限定合理的な行動のマクロ経済学的な含意を明らかにし、より効果的な経済政策の立案に寄与することを目的とする。特に、ミクロの限定合理性が、多数の意思決定主体の相互作用を通じマクロで打ち消されないのはどのような条件下なのか?を明らかする。
その結果、人間の行動バイアスを明示的に考慮したマクロ経済モデルの構築の重要性を明らかにし、より有効なマクロ経済政策の考案に貢献する。
研究の背景と結果
実験・行動経済学は、人間の行動は経済学が通常仮定してきた合理的な意思決定に基づくものではなく、人間の認知・情報処理能力の制限や、その時の感情を含む心理的な要素に左右されることを明らかにしてきた。近年、これらの知見は専門家のみならず一般にも知られるようになり、行動経済学の知見を取り入れた制度設計や政策立案の動きも多く出始めている。
一方で、行動経済学のマクロ経済学への応用に関しては、2007年に米国で端を発した世界同時金融危機に直面し、危機時のパニック行動などを考慮すべく行動経済学の知見等を活かした新たなマクロ経済政策の研究の必要性が叫ばれたが、これらのバイアスは市場競争等、多くの意思決定者の相互作用を通じて打ち消され、経済全体としては合理的な意思決定に基づいた行動として分析できるものに収束するという考えから、その必要性に懐疑的な専門家も多かった。Hanaki (2020)で概観した私の一連の実験研究は、人々の行動の間に補完性が生じる時には、ミクロレベルの限定合理性がマクロレベルで打ち消されず、逆に増幅されうることを示した。
図1と図2は、補完性がある場合(青)とない場合(赤)で、実験参加者の行動のバイアスを考慮しないモデルの予測からの乖離を、2人1組(図1)の場合と、8人1組(図2)の場合で比較している。グループが大きい場合に、補完性があるケースの方がない場合と比べて、乖離が大きくなることが見て取れる。例えば、資産市場では、将来価格の上昇が見込まれる資産の需要が高まり実際に価格が上昇する。同様に、マクロ経済では、将来景気が良くなると人々が予想すれば、それを見越して投資が増え、実際に景気が良くなる。また、流行は、流行っているもの人々がより欲するのでさらに流行る。このように、人間社会は補完性で溢れているのである。
研究の意義と将来展望
私はこれまでの研究で、ミクロレベルの行動バイアスは、マクロで打ち消されるのでなく、増幅される可能性を示し、行動マクロ経済学研究を発展させる重要性を明らかにした。ここで紹介した私の研究と並行して、この数年、合理的期待形成仮説を緩めた行動期待形成モデルに基づいた行動マクロ経済学の研究がさまざまな研究者によって精力的に進められるようになった。
ただ、様々な研究グループが独自の行動期待形成モデルを提唱しているのが現状で、これらの行動期待形成モデルの妥当性の検証が遅れている。現在、私は、これらの最新の行動期待形成モデルを被験者実験で検証することを通じて、急速に発展している行動マクロ経済学の基礎付けに貢献することに注力している。

赤:代替性がある場合。青:補完性がある場合。
出所:Hanaki et al., (2019, Fig. 3)

赤:代替性がある場合。青:補完性がある場合。
出所:Hanaki et al., (2019, Fig. 3)
図1と図2を比較すると、グループが大きい(8人1組)時に補完性がある場合の方が、行動バイアスを考慮しないモデル予測(合理的期待均衡)からの乖離が大きくなっている。

担当研究者
教授 花木 伸行 (社会経済研究所 附属行動経済学研究センター)
キーワード
実験経済学/行動経済学/マクロ経済学/ファイナンス/ゲーム理論
応用分野
金融政策、財政政策、政策コミュニケーション
参考URL
https://www.iser.osaka-u.ac.jp/kikoku/
https://www.iser.osaka-u.ac.jp/A-Model2023/index.html
https://researchmap.jp/nhanaki
