研究 (Research)
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光異性化の際に単結晶性が保持できる刺激応答性分子ネットワーク結晶の開発 (Development of stimuli-responsive molecular network crystal capable of retaining single crystallinity in photoisomerization)
教授 久木 一朗 (基礎工学研究科 物質創成専攻) HISAKI Ichiro (Graduate School of Engineering Science)
研究の概要
フォトクロミック分子とは、光反応によって分子構造が変化し、その光学的な性質も変化する光応答性の分子である。本研究ではこのような分子を、水素結合を用いて自己集合させ、光応答性の多孔質材料を開発することを目的とした。具体的には、ジヒドロジメチルベンゾ[e]ピレンをカルボキシル基で化学修飾した誘導体4BDHP を用いて分子ネットワーク結晶を作製し、その光応答性を検証した。
その結果、4BDHP はカルボキシ基同士の水素結合によって網目状に規則的に連結し、内部にチャネル状の包接空間を有する単結晶を与えることが分かった。この単結晶に可視光を照射したところ、単結晶性をほとんど維持したまま分子の光異性が進行した。さらに光異性化によりチャネル空間はより狭いボトルネックをもつ形状へと変化することが分かった。
研究の背景と結果
光応答性の分子で構成される結晶は、光メモリー、スイッチ、表面変調器、アクチュエーターなどへの応用が期待されている。特に、光応答性の多孔質結晶は、光刺激を駆動力として選択的に化学物質を吸着・放出できるスマート材料として有望である。これまでに、光異性化する化学構造をもった有機金属構造体(MOF)や、共有結合性有機構造体(COF)が報告されている。一方、水素結合性有機構造体(HOF)と呼ばれる分子結晶フレームワークは、構造欠陥が少なく再利用も可能な高結晶性の材料として近年興味がもたれている。しかし、これまで光によって構造や物性を可逆的に変調でき、かつその高い結晶性を維持できる HOF は無かった。
本研究では、結晶周期性を維持したまま光異性化できる、構造的に予測可能な HOF 結晶の開発を目的とした。具体的には、光異性化反応の前後で、2次元水素結合ネットワークの周期性が変化しないように設計したジヒドロジメチルベンゾ [e] ピレンのカルボン酸誘導体4BDHP を構成分子に用いて、HOF の構築を行った。
その結果、ジメトキシベンゼンとジメチルホルムアミドの混合溶液から結晶化して得られた HOF 4BDHP-2が、可視光の照射によって光異性化することが分かった。特に、4BDHP の片方のエナンチオマーのみを用いて作成した HOF 4BDHP-2の単結晶は、光異性化後も結晶性を保っており、X 線構造解析によってその構造を明らかにすることに成功した。光異性化後の結晶は、元の閉環体(4BDHP)と光異性化した開環体(4CPD)の分子が、結晶周期性を保ちながら交互に配列していた網目構造をもつことが分かった。この異性化により、結晶中の包接空間の形状が変化した。光異性化後も結晶周期性を維持する光応答性多孔質結晶の概念実証系は、新たな光駆動多孔性機能材料を提供する可能性がある。
研究の意義と将来展望
構成分子が光異性化した後でもその結晶の周期性を維持することができる光応答性の多孔質結晶は、光照射という非接触の刺激を用いて、繰り返し結晶空孔から分子を放出したり空孔に分子を取り込んだりできる。
このような「開閉自在の分子コンテナ」を創出することができれば、コンテナからの薬剤の放出、あるいは局所的に発生した化学物質のコンテナへの取り込みを、時空間を制御して行える可能性があり、医療や環境の分野での利用が期待できる。


担当研究者
教授 久木 一朗 (基礎工学研究科 物質創成専攻)
キーワード
水素結合/多孔質フレームワーク/光スイッチング/有機結晶
応用分野
環境応答性材料、光・電子デバイス、スマート材料
参考URL
https://www.chem.es.osaka-u.ac.jp/mac/
https://researchmap.jp/Ichiro_Hisaki
