研究 (Research)
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植物が葉の表面に一層の表皮を作るしくみ (How do plants form a single layer of epidermis on the surface of leaves?)
博士後期課程(現:博士研究員) 飯田 浩行 (理学研究科 生物科学専攻(現:へルシンキ大学生物環境科学部))、助教 髙田 忍( 理学研究科 生物科学専攻 ) IIDA Hiroyuki (Graduate School of Science (Current affiliation: Faculty of Biological and Environmental Sciences, University of Helsinki)), TAKADA Shinobu (Graduate School of Science)
研究の概要
植物の葉や茎の表面を覆う表皮は、植物を乾燥や病原体の感染・食害から守る防御組織です。本研究は、表皮が植物の表面に形成されるしくみを明らかにしたものです。私たちは、葉の表皮を取り除き、葉の内側にある緑色の光合成細胞(葉肉細胞)を表面に露出させると、葉肉細胞で表皮を作る遺伝子ATML1が活性化されることを発見しました。表皮の傷害によってATML1が活性化された若い葉肉細胞は、表皮へと変化しました。さらに、ATML1の活性化には外側の組織による圧迫からの解放が必要であることも示しました。
これらの結果から、植物細胞は物理的な力を感知することで自身の位置を認識し、表皮に分化するか葉肉細胞に分化するかを決めていると考えられます。
研究の背景と結果
植物の細胞運命の決定には、細胞系譜よりも個体内での細胞の位置が重要であることが分かっています。しかし、植物細胞が自らの位置を知るための目印(位置情報)の多くは不明のままです。多くの植物において、表皮は器官の最外層のみに作られるため、表皮分化は位置に応じた細胞分化の良いモデルです。葉の若い表皮細胞が器官表面と垂直な方向に分裂し、表面の細胞と内側の細胞に分かれると、表面に位置しなくなった細胞は表皮運命を維持できず、葉肉細胞へと分化します。つまり、植物細胞は自身の位置を認識して適切な細胞へと分化しています。
私たちはこれまでに、シロイヌナズナのATML1遺伝子が表皮を形成する能力を持つことを明らかにしています。ATML1遺伝子は器官表面の細胞で強く転写(活性化)されており、ATML1が全ての細胞で転写されるように改変した植物では、内側の組織にも表皮細胞が作られました。一方、ATML1を不活化した植物では表皮の無い葉が作られました。
今回私たちは、表面の細胞のみでATML1の転写や表皮分化が起きるしくみを調べました。シロイヌナズナの葉の表皮を剥がし、内側の葉肉細胞を葉の表面に露出させると、ATML1の転写が活性化されました。このとき、ATML1を転写する葉肉細胞は変形し、葉の外側に突出していました。これは、葉肉細胞が表皮による圧迫から解放されたことを示唆します。そこで、表皮を除去した葉をカバーガラスで挟んで圧迫すると、葉肉細胞の突出とATML1の転写が見られなくなりました。
このことから、植物細胞は圧迫から解放されることで自身が最外層に位置することを知り、ATML1を転写すると考えられます。また、若い葉の表皮を傷つけると、内側にあった葉肉組織から、ATML1を転写する新たな表皮細胞の形成が見られました。つまり、表面依存的なATML1の活性化には、防御組織である表皮を再生する役割があると考えられます。
研究の意義と将来展望
最外層に位置する細胞だけが表皮細胞へと分化することは多くの植物で知られていましたが、そのしくみは不明でした。
本研究は、外側から圧迫されないことが「表面」の目印となって表皮が作られることを示したもので、植物発生学における長年の謎を解明しただけでなく、植物が傷ついたときに防御組織である表皮を速やかに再生させる治療法の開発に発展する可能性があります。また、表皮の形成や再生を自由に制御できれば、乾燥や病原体の感染に耐性を持つ植物の作出が可能となり、育種・農業分野への応用が期待できます。



担当研究者
博士後期課程(現:博士研究員) 飯田 浩行 (理学研究科 生物科学専攻(現:へルシンキ大学生物環境科学部))、助教 髙田 忍( 理学研究科 生物科学専攻 )
キーワード
植物発生生物学/位置情報/細胞運命決定/再生
応用分野
農業、育種
参考URL
https://www.bio.sci.osaka-u.ac.jp/~shinobu_takada/index.html
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2023/20230428_2
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2019/20190418_1
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2013/20130408_1
https://researchmap.jp/stakada/
