研究 (Research)
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「土に還る」循環型土壌含水率センサ (“Return to the soil” circular soil moisture sensors)
助教 春日 貴章 (産業科学研究所 自然材料機能化研究分野) KASUGA Takaaki (SANKEN (The Institute of Scientific and Industrial Research))
研究の概要
本研究では、紙、天然ワックス、錫など環境に配慮した材料のみで構成された土壌含水率センサの開発に成功しました。開発したセンサは、検出した土壌の水分量を熱として発信し、その熱をサーマルカメラを用いて撮影することで、センサの設置位置と土壌含水率を遠隔から同時に取得することが可能です。これまで生分解性プラスチックなどを用いた環境に優しい電子材料に関する研究は数多く行われてきましたが、性能や安定性に課題があり、分解性とセンサとしての必須機能(センシング・データ発信・設置位置情報発信)を両立することが困難でした。
本研究では単純な構造のセンサと無線給電、そしてサーマルカメラを組み合わせることで、センサ自体の分解性と必須機能を両立した新しいコンセプトのセンシングシステムを実証することに成功しました。これにより、環境に優しい、持続可能なセンサ技術の発展や、「センシングできる肥料」などの新技術の開拓が期待されます。
研究の背景と結果
センサは温度、湿度、含水率、光など様々な環境情報をデジタル信号に変換できる、いわば現実空間とデジタル空間の窓口のような存在です。センサの設置数が増えるほど、得られる環境情報の質と量は増大します。しかし一方で、センサの生産数、設置数が増えるほど、環境への負荷が問題となります。特に重要となるのが使用済みセンサの回収・処分の問題です。屋外環境で大量にセンサを設置した場合、その全てを回収することは容易ではありません。
このような背景から、近年、環境に優しい電子デバイスの開発が盛んに行われています。生分解性プラや植物繊維、たんぱく質など、生物由来の材料を用いた電子回路基板やトランジスタなどの素子が開発されています。屋外で使用するセンサには、必須となる3機能が存在します。それは、①環境情報収集(センシング)、②センシングしたデータの発信、③設置位置情報の発信の3つです。つまり、屋外で使用可能な「環境に優しいセンサ」を作りたい場合、この3機能を環境に配慮した材料だけを用いて実現する必要があります。
本研究では、単純化したセンサ本体と無線給電、サーマルカメラによる画像認識を組み合わせることで、センサ本体の分解性とセンシング、データ / 位置情報発信の機能を両立することに成功しました。
センサ本体は木材由来の微細繊維で作られた紙基板、錫配線、カーボンヒーター、天然ワックスコーティングで構成されています。センサは無線給電で電力が供給され、電力供給によりセンサに搭載されたヒーターが加熱されます。センサを設置した土壌の含水率によって受信電力が変化する設計となっており、土壌含水率が変化すると、ヒーターの温度が変化します。つまり、設置した土壌が乾いているほど、ヒーターが熱くなります。そのため、センサを設置した領域をサーマルカメラで撮影すれば、熱源位置からセンサの設置位置が、熱源温度から土壌含水率が推定できます。センサを大量に地面に設置した場合でも、カメラで撮影するだけで土壌含水率の情報をマッピングすることが可能です。例えば、土壌の水分が不足している部分をすぐに発見できます。
研究の意義と将来展望
本研究成果により、環境に優しい、持続可能な電子産業の発展や、分解性センサを用いた新たなセンシングシステムの開発が期待されます。人にも環境にも優しい未来の実現に向けて、より高性能な「土に還る」センサの実現・社会実装の加速が期待できます。


担当研究者
助教 春日 貴章 (産業科学研究所 自然材料機能化研究分野)
キーワード
分解性センサ/ナノセルロース/無線給電
応用分野
センシング、スマート農業
参考URL
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2023/20231017_1
https://researchmap.jp/tkasuga
