研究 (Research)

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物質シミュレーションのための量子アルゴリズム開発 (Developing quantum algorithms for materials simulation)

准教授 御手洗 光祐 (基礎工学研究科 システム創成専攻/量子情報・量子生命研究センター) MITARAI Kosuke (Graduate School of Engineering Science/Center for Quantum Information and Quantum Biology)

  • 理工情報系 (Science, Engineering and Information Sciences)
  • 基礎工学研究科・基礎工学部 (Graduate School of Engineering Science, School of Engineering Science)

English Information

研究の概要

量子コンピュータは、量子論の基礎原理を積極的に計算に活用することで、従来のコンピュータ(古典コンピュータ)では実現できなかった計算を可能にします。量子コンピュータのハードウェア開発は驚くほどの速さで進んでおり、私は、そう遠くない未来に、量子コンピュータがこれまで解かれていなかった問題を解決すると信じています。
私の研究テーマは、量子コンピュータの実応用を、ソフトウェア / アルゴリズムの側から加速することです。特に近年は、量子力学を直接扱える量子コンピュータの特性を全面的に利用して、分子、原子、電子などミクロの世界のシミュレーションを量子コンピュータで行うためのアルゴリズム開発に力を入れています。

研究の背景と結果

紹介する一つ目の成果は、量子選択配置間相互作用法と名付けた計算手法です。これは古典コンピュータにおける伝統的な高精度計算手法である配置間相互作用法を、量子コンピュータからの情報によって支援することで、より高精度な計算を実現しようとするものです。あくまで古典コンピュータの計算を量子コンピュータによって支援する形をとることにより、量子側の計算負荷を減らし、現在、あるいは近未来の量子コンピュータ上での実行可能性を向上させています。
実際、IBM の研究グループが、我々が提案したこの手法を用いて、現在利用可能な実際のハードウェア上で、数十電子からなる系の計算を行いました [arXiv: 2405.05068v1]。もちろん、この研究以前にも、現在利用可能なハードウェア上で、ミクロ世界のシミュレーションを行うための手法はいくつも提案されてきました。それらと比較して、本手法は (1) 量子コンピュータにかける計算負荷が圧倒的に小さいこと(2) これまでの手法では、エネルギー以外の物理量を取り出そうとすると、量子コンピュータ上で追加計算が必要でしたが、本手法では古典コンピュータ上での追加計算のみで行えることという2つの大きな特徴があります。
他にも、将来のより大規模な量子コンピュータを仮定したアルゴリズムの研究開発も行っています。一つの成果は、量子コンピュータ上で摂動論的計算を行うためのアルゴリズムの確立です。摂動論は、古典コンピュータ上での計算にもよく用いられる手法で、物理系の小さな相互作用を段階的に取り入れることで、近似的にその物理系をシミュレートしようとするものです。特に、どの相互作用が物理系の特性に効いているかをある程度できることは、摂動論の特長です。
摂動論的計算を量子コンピュータ上で行うためのアルゴリズムはこれまで知られておらず、我々が初めて定式化し、さらに必要となる量子コンピュータの規模や計算時間についての議論を行いました。摂動論を取り入れることにより、量子コンピュータがはじき出す計算結果の解釈可能性が向上すると考えています。今後はより現実的な物理系に適用するための改良を加えていくつもりです。

研究の意義と将来展望

量子コンピュータを使うことで、古典コンピュータではこれまで不可能だった精度で、物質シミュレーションができるようになると信じています。
私は、現実に物質を作らなくとも、正確にその性質を予測でき、さらにその性質がなぜ得られるのかを説明し、物質設計に示唆を与えられるような量子アルゴリズムの開発を目指しています。そのようなことが可能になれば、多くの場合実験ベースで物質合成・設計が行われている化学や物理の広い範囲に、大きな影響を与えることは間違いありません。

担当研究者

准教授 御手洗 光祐 (基礎工学研究科 システム創成専攻/量子情報・量子生命研究センター)

キーワード

量子コンピュータ/第一原理計算/量子化学計算/材料設計/量子アルゴリズム

応用分野

次世代情報処理、創薬・材料設計

参考URL

https://mitarai.qc.ee.es.osaka-u.ac.jp/
https://researchmap.jp/kosuke-mitarai

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2025(未来社会共創を目指す)より抜粋・修正したものです。