研究 (Research)
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クローン病を悪化させる組織常在性記憶T細胞の同定 (Identification of tissue-resident memory T cells with pathogenic potency of Crohn’s disease)
准教授 村上 真理、教授 竹田 潔 (医学系研究科 免疫制御学) MURAKAMI Mari, TAKEDA Kiyoshi (Graduate School of Medicine)
研究の概要
炎症性腸疾患は、消化管に慢性の炎症が引き起こされ、寛解と再燃を繰り返す指定難病で、クローン病と潰瘍性大腸炎という2つの病型の総称である。T 細胞の過剰な活性化により病態が誘導されるが、これまで疾患特異的な T 細胞は明らかにされていなかった。
本研究ではマスサイトメトリーとシングルセル RNA-seq の技術を用いてヒト腸管 T 細胞の解析を行い、クローン病患者の腸管で特異的に発現する組織常在性記憶 T 細胞(TRM)を同定した。この T 細胞は CD4陽性で組織常在性の特性を有し、クローン病の腸環境下で増加するサイトカインの刺激によって細胞傷害性の顆粒や IFN- γなどの炎症性因子を分泌することが明らかになった。
これにより、周囲の免疫細胞をさらに活性化するのみならず、近接する腸管上皮細胞の傷害を促進することが示唆された。さらに、腸粘膜中に含まれる疾患特異的 T 細胞数と疾患活動性の指標は相関することから、本研究で見出した疾患特異的T細胞はクローン病の病理学的特徴であると考えられる。
研究の背景と結果
生物学的製剤をはじめとする治療薬の開発により、炎症性腸疾患の寛解導入率は飛躍的に改善した。しかしながらクローン病においては腸管の狭窄や瘻孔、潰瘍性大腸炎では炎症性発癌など長期的予後に関する多くの課題が残され、その解決が新たな治療目標となりつつある。炎症性腸疾患は T 細胞の過剰な活性化により誘導されるが、慢性化のメカニズムや再発時の免疫応答発動の端緒となる因子については明らかになっていない。TRM は、末梢のバリア組織に長期にわたって滞留する細胞である。そのため炎症の遷延化や慢性化との関連が示唆されるものの、炎症性腸疾患の病態との関わりは解明されていなかった。
本研究では、クローン病の腸管において疾患特異的 TRM が発現し、病態悪化に寄与する可能性を示した。クローン病、潰瘍性大腸炎、大腸がんの大腸粘膜に含まれる T 細胞をマスサイトメトリーを用いてプロファイリングしたところ、クローン病では CD161および CCR5を発現する CD4+ TRM が他群に比して有意に増加していた。また、腸粘膜におけるこの T 細胞の数と疾患活動性の指標には正の相関が認められた。T 細胞のシングルセル RNA seq 解析では、クローン病の腸管にきわめて特異的に発現する TRM サブセットが見出され、このサブセットは細胞傷害および Th1細胞関連の遺伝子を高発現することが明らかになった。疾患特異的 T 細胞は in vitro においても炎症性腸疾患の腸粘膜で増加する IL-12、IL-18、IL-7、IL-15による刺激に鋭敏に反応し、Th1型のサイトカインを分泌した。
一方、ヒト腸管上皮細胞由来のオルガノイドと疾患特異的 CD4+ TRM を上述のサイトカイン刺激下で共培養すると、非刺激群と比較して有意に培養上清中の LDH が上昇し、オルガノイドの傷害スコアが上昇した。CD4+ TRM は腸管上皮層に近接して粘膜固有層に集簇することから、疾患特異的 T 細胞は炎症性サイトカインの分泌により炎症を悪化させるとともに、腸管上皮細胞の傷害を促す可能性が示唆された。
研究の意義と将来展望
炎症局所の免疫細胞の包括的な解析は、疾患の根底にある分子メカニズムの解明への道を開くものである。本研究で見出された疾患特異的 T 細胞の特性や誘導機構を解明することは、クローン病の新たな治療戦略の構築につながると考えられる。



担当研究者
准教授 村上 真理、教授 竹田 潔 (医学系研究科 免疫制御学)
キーワード
炎症性腸疾患/粘膜免疫/単一細胞解析/組織常在性記憶 T 細胞
応用分野
医療・ヘルスケア、創薬
参考URL
https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/ongene/
https://researchmap.jp/marim
https://researchmap.jp/read0118278
