研究 (Research)
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厚生労働省指定難病・血管炎の予後にかかわる1細胞ごとの遺伝子発現の違いを世界で初めて明らかに (Single-cell multi-omics analysis identifies two distinct phenotypes of newly-onset microscopic polyangiitis)
講師 西出 真之 (医学系研究科呼吸器・免疫内科学講座、免疫学フロンティア) NISHIDE Masayuki (Graduate School of Medicine)
研究の概要
大阪大学大学院医学系研究科呼吸器・免疫内科学講座、免疫学フロンティア研究センター免疫創薬共同研究部門、および先端免疫臨床応用学共同研究講座の共同研究グループは、わが国の指定難病である顕微鏡的多発血管炎(MPA)患者さんの白血球を1細胞レベルで解析し、主に「単球」と呼ばれる細胞の遺伝子発現の違いによって、患者さんの症状や予後に大きな差があることを発見しました。
研究グループが MPA 患者さんおよび健常人に対し白血球の1細胞解析を行ったところ、血管炎の患者さんは単球と呼ばれる白血球が過剰に活性化している群(MPA-MONO)と、インターフェロンと呼ばれるタンパク質による刺激を多く受けている群(MPA-IFN)に大別されました。活性化した単球は重症細菌感染の際にも現れる未熟な単球であり、血管炎の治療後も血中に残存していることが特徴でした。MPA-MONO 群は血液中の単球比率の増加や炎症反応高値を認め、治療後の再発率が高く、一方、MPA-IFN群は血液中のインターフェロン濃度が高く、腎臓の病変を高率に合併するが、免疫抑制治療には良好な反応を示すことが明らかになりました(図1)。

シングルセル解析に基づいて、MPA患者は活性化したCD14+単球が増加している群(MPA-MONO)と、ISG発現を特徴とするCD14+単球の増加特徴的な群(MPA-IFN)に大別された。各々の群の臨床的特徴から、再燃予測や治療選択に役立つ可能性がある。
研究の背景と結果
顕微鏡的多発血管炎(MPA)は、腎臓、肺、皮膚、神経などに分布する小型血管の血管壁に炎症を引き起こし、血流障害による内臓機能低下や、組織の壊死に繋がる病気です。多様かつ臓器横断的な症状をきたす自己免疫疾患であり、厚生労働省の指定難病となっています。実臨床では臓器障害の評価に加え、血清 CRP 値や ANCA 値などが疾患活動性マーカーとなりますが、正確な予後予測・再燃予測は困難であるとされてきました。西出講師・熊ノ郷教授らの研究グループでは、新規発症の MPA 患者さんおよび健常人の末梢血を採取し、合計109,350個の末梢血単核球(PBMC)について、1細胞解析(シングルセルトランスクリプトーム解析および表面分子のプロテオーム解析)を実施しました。
研究の結果、MPA 患者さんでは活性化した CD14陽性単球、インターフェロン関連遺伝子(ISG)を発現する単球の割合が末梢血中で有意に増加していました(図2)。活性化した CD14陽性単球は重症細菌感染の際にも現れる未熟な単球であり、血管炎の治療後も血中に残存していることが特徴でした。個別の症例についてさらに解析を加えると、MPA 患者さんは CD14陽性単球に関連する遺伝子発現を特徴とする患者群(MPA-MONO)と、ISG 発現が強い患者群(MPA-IFN)の2つに大別されました。MPA-MONO 群は再発率が高く、臨床的には血液検査における単球の比率の増加や血清 CRP 高値により特徴付けられました。MPA-IFN 群は血液中のインターフェロン濃度が高く、腎臓の病変を高率に合併するが、免疫抑制治療には良好な反応を示すことが特徴でした(図3)。
治療前に単球比率とインターフェロン濃度を測定することができれば、患者さんの再燃率を感度(病気がある群での検査の陽性率)82パーセント、特異度(病気が無い群での検査の陰性率)50パーセントで予測することができました。1細胞ごとの遺伝子発現の違いに基づいた免疫難病・血管炎の表現型を世界で初めて明らかにし、実臨床での治療反応性や予後の予測に応用できる研究成果です。

左は遺伝子発現の特徴が似通った細胞を一つの島としてマッピングした図。右図は各島の遺伝子発現の差をLog2スケールで比較したBeeswarmブロット。いずれも赤はMPA患者での増加を示す。MPA患者では健常人と比較してインターフェロン刺激遺伝子 (ISG)陽性のCD14陽性単球(CD14 Mono_ISG)、活性化したCD14陽性単球(CD14 Mono_Activated)の割合が増加していた。主論文より引用、一部改変。

前述のMPA-MONO、MPA-IFNのサブタイプ分けを最も反映する臨床パラメータを、43名のMPAのカルテ情報、保存血清解析に拡張し臨床データを抽出。結果、末梢血単核球中の単球の割合、血清中インターフェロンα濃度により9例ずつのMPA-MONOとMPA-IFNに明確に分離された。主論文より引用、一部改変。
研究の意義と将来展望
1細胞レベルの遺伝子発現の違いに基づいた血管炎の表現型を世界で初めて明らかにしただけでなく、この分類を実臨床に応用することにより、新規発症の血管炎の患者さんの治療反応性や予後を病気の発症時から事前に予測し、診療に役立てることが期待されます。
担当研究者
講師 西出 真之 (医学系研究科呼吸器・免疫内科学講座、免疫学フロンティア)
キーワード
シングルセル解析/マルチオミクス解析/抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎/顕微鏡的多発血管炎/単球
応用分野
リウマチ・膠原病、医療・ヘルスケア、疾患予後予測
参考URL
http://www.imed3.med.osaka-u.ac.jp/
https://researchmap.jp/masayukinishide
https://researchmap.jp/read0051725
