研究 (Research)

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血管透過性を標的とする重症感染症治療薬の開発 (Development of drugs for severe infectious diseases by targeting vascular permeability)

教授 岡田 欣晃 (薬学研究科 心血管創薬学分野) OKADA Yoshiaki (Graduate School of Pharmaceutical Sciences)

  • 医歯薬生命系 (Medical, Dental, Pharmaceutical and Life Sciences)
  • 薬学研究科・薬学部 (Graduate School of Pharmaceutical Sciences, School of Pharmaceutical Sciences)

English Information

研究の概要

近年、COVID-19を含む様々な感染症が大きな脅威となっている。これまでに、病原体、免疫細胞、炎症性サイトカインを標的とする効果的な治療薬が開発されてきたが、これらを用いてもなお感染症の完全な制圧は難しく、高い致死率が問題となっている。そこで本研究では、これまで標的とされてこなかった、重症感染症の「血管透過性の亢進」のプロセスに着目し、これを抑制する新機序薬の開発を行った。まず、血管安定化分子である Robo4の発現を血管特異的に増加させたところ、敗血症モデルマウスの血管透過性と死亡率が抑制された。次に、Robo4発現の調節メカニズムの解明を通じ、Robo4発現を増加させる低 分 子 薬 を 同 定 し た。最 後 に、こ の 低 分 子 薬 で 敗 血 症 お よ びCOVID-19モデルマウスの血管透過性を抑制し、死亡率を低減できることを示した。これらの結果から、Robo4を標的とする血管透過性抑制薬で重症感染症を緩和できることが明らかになった。

研究の背景と結果

血管透過性は、血管の内側を覆う内皮細胞間の接着により制御されている。この内皮細胞に特異的に発現するタンパク質である Robo4は、内皮細胞間接着を安定化することで、血管透過性を抑制することが示されている。今回我々は、内皮細胞のRobo4発現量を増加させることで、重症感染症における血管透過性を抑制し、病態を緩和できるかを検討した。内皮細胞の Robo4発現量を増加させたマウスを作製し、細菌の膜成分(リポポリサッカライド)を投与したところ、野生型マウスに比べて血管透過性が抑制され、死亡率が低下した。このことからRobo4発現量を増やす戦略で敗血症病態を緩和できることが示された。
Robo4発現量を増加させる薬の開発に向け、Robo4発現を制御するシグナル伝達系を探索した。Robo4発現を制御するプロモーター配列を導入した細胞を作製し、Robo4プロモーターの活性を変化させる化合物をスクリーニングした。その結果、プロモーター活性を抑制する化合物として受容体 ALK5の阻害剤が同定された。ALK5を介するシグナル伝達系の詳細な解析から、ALK5-SMAD2/3シグナルが Robo4発現を促進することが示された。さらに、このシグナルと競合することが知られている ALK1-SMAD1/5シグナルが Robo4発現を抑制すること、また、このシグナルを抑制する ALK1阻害剤が Robo4発現を増加させることを見出した。最後に、ALK1阻害剤を敗血症およびCOVID-19マウスに投与すると、肺における血管透過性が抑制され、死亡率が抑制された。これらの研究から、Robo4発現を促進する血管透過性抑制薬で、重症感染症病態を緩和できることが示された。

研究の意義と将来展望

今回の研究から、「血管透過性の亢進」のプロセスを抑制する新しい機序薬が、重症感染症の治療薬となりうることが示された。血管透過性を標的とする治療薬は、血管を強化する作用機序のため、病原体を選ばず、既存薬との併用も可能である。このため、本治療薬は今後出現する、抗病原体薬やワクチンが存在しない新たな重症感染症の治療に貢献すると期待される。

図1 重症感染症の発症プロセスと治療薬
図2 Robo4発現を促進するALK1阻害剤のCOVID-19モデルへの影響

担当研究者

教授 岡田 欣晃 (薬学研究科 心血管創薬学分野)

キーワード

血管透過性/重症感染症/新型コロナウイルス感染症/敗血症/血管内皮細胞

応用分野

医療・ヘルスケア、創薬

参考URL

https://www.phs.osaka-u.ac.jp/research/researcherDetail.php?id=34
https://researchmap.jp/magic_roundabout

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2025(未来社会共創を目指す)より抜粋・修正したものです。