研究 (Research)

最終更新日:

光/電気エネルギーを駆動力とする低反応性有機分子へのCO2挿入反応の開発 (Photo/electrochemical CO2 insertion into unreactive organic molecules)

助教 嵯峨 裕 (工学研究科 応用化学専攻) SAGA Yutaka (Graduate School of Engineering)

  • 理工情報系 (Science, Engineering and Information Sciences)
  • 工学研究科・工学部 (Graduate School of Engineering, School of Engineering)

English Information

研究の概要

深刻なエネルギー・環境問題を背景として、地球上に豊富に存在する安価な資源から、再生可能エネルギーを利用して、医薬品等の高付加価値分子合成を可能とする「エコ」な新規技術が希求されている。今回筆者らは、安価かつ豊富な CO2と炭化水素アルケンを用いて、再生可能エネルギーから入手可能な可視光を駆動力とした、医薬品重要骨格γ-ケト酸の1段階合成に世界で初めて成功した。同時に、アルケン、アシル基、カルボキシル基の3成分を一挙に連結する初の3成分アシルカルボキシル化反応も達成した。

研究の背景と結果

γ – ケト酸は、生理活性化合物や医農薬品中に多く見られる重要な分子骨格である。しかしその合成にあたってγ – ケト酸は、2つの構造的制約すなわち、1. 隣接する炭素の極性が不一致である1,4- ジカルボニル構造と、2. 反応性の高い無保護カルボン酸のために、1段階による骨格構築が非常に困難である。現在までに数例の報告例があったものの、希少な原料を必要とする点や過剰量の危険試薬を使用する点に課題を残していた。炭化水素等の地球に豊富に存在する原料を出発点とし、環境に優しい穏和な条件でγ – ケト酸骨格の1段階合成を可能とする、新規技術が望まれていた。しかしながら、そのような報告例は皆無であった。
最近筆者らは、ベンズイミダゾリン(BI)類という分子群が新規アシル源として機能することを初めて見出し、従来は困難であった不活性アルケンの可視光駆動ヒドロアシル化反応を達成した。ここで筆者らは、本 BI 類をアシル源、CO2をカルボキシル源として、炭化水素アルケンに一挙に挿入することが出来れば、理想的なγ – ケト酸の一段階合成戦略になりうると考えた。本戦略の下種々検討の結果、アルケンの3成分アシルカルボキル化反応が進行することを見出し、γ – ケト酸の1段階合成に初めて成功した。加えてこれは、アルケンの3成分アシルカルボキシル化反応を達成した世界初の例である。本系においては、Ir 光触媒存在下、BI 類がアシル源として機能し、また可視光照射・常圧 CO2雰囲気・室温という非常に穏和な条件における反応に成功した。また各種機構解析(蛍光消光実験・ラジカルクエンチ実験・同位体実験・中間体の単離等)から、想定触媒サイクルを提唱した。
筆者らが開発した本手法は、地球環境に調和した形(常圧・室温・再生可能エネルギーから入手可能な可視光駆動)で、温室効果ガスである CO2を取り込み削減しながら、医農薬品に多く見られる重要分子骨格を、わずか1段階で構築可能な魅力的な方法論であると考える。

研究の意義と将来展望

「炭化水素への CO2挿入反応」は、温室効果ガスを削減し、環境負荷を与えることなく医薬品等に多く含まれるカルボン酸骨格をわずか1工程で供給しうる魅力的な化学変換である。しかし、炭化水素・CO2共に活性化が困難な安定分子であり、この2つを原料とする本反応は未だに最難関の化学変換である。本情勢の下筆者らは、光駆動触媒系の精密設計を基盤として、炭化水素アルケンへの世界初の3成分アシルカルボキシル化反応を達成した。また同時に、医薬品に頻繁に見られるγ – ケト酸骨格の初の1段階合成も達成した。現在、同じく再生可能エネルギーから容易に入手可能な電気を駆動力とした、炭化水素への CO2挿入反応の開発にも成功している。今後も、地球環境に調和しながら人類の生活と健康に不可欠な分子を自在に合成・供給する、次世代型技術の創製を目指していきたい。

図1 アルケンの可視光駆動3成分アシルカルボキシ化反応の開発
図2 将来展望: 光/電気を駆動力とした、汎用資源からの医薬骨格群迅速合成

担当研究者

助教 嵯峨 裕 (工学研究科 応用化学専攻)

キーワード

二酸化炭素挿入/二酸化炭素資源化/光駆動有機合成/電気駆動有機合成/炭化水素変換

応用分野

創薬、カーボンニュートラル、空気資源化

参考URL

http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/masaoka_lab/index.html
https://researchmap.jp/ysagagerrard

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2025(未来社会共創を目指す)より抜粋・修正したものです。