研究 (Research)

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国際比較研究を通じて、誰もが安心して暮らせる地域共生社会を探求する(International comparative study for community-based care which realizes a society with diversity, equity and inclusion (DE&I))

教授 斉藤 弥生 (人間科学研究科 共生学系コミュニティ学講座 「福祉と人間学」研究室) SAITO Yayoi (Graduate School of Human Sciences)

  • 人文学社会科学系 (Humanities and Social Sciences)
  • 人間科学研究科・人間科学部 (Graduate School of Human Sciences, School of Human Sciences)

研究の概要

私の研究室では政府、市場、家族や地域の役割を踏まえ、支援を必要とする高齢者、障がいのある人たちが自立して生活できる社会、また子どもたちの権利が守られ、安心して暮らすことができる社会に必要な政策と制度設計を研究しています。福祉事業や市民活動の現場、当事者の声に耳を傾け、同時に国際的視野で福祉政策やその動向を把握し分析してきました。特に「北欧モデル」と呼ばれる、すべての人を対象にしたユニバーサルな福祉制度を持つスウェーデンをはじめとする北欧社会、また日本と同様に社会保険制度を持つドイツ、東アジアモデルの韓国の高齢者政策、急ピッチで社会保障制度の整備に取り組む韓国を始めアジアの国々の動向にも注目しています。

主な研究の概要

「Co-production の理論と実践-参加型福祉と医療の可能性に関する研究」
本研究は、V.Pestoff(スウェーデン・マリアシューデルシュッド大学客員教授)と日本の介護事業者、病院を対象にした、10年にわたる国際共同研究の成果である。社会的企業(NPO や協同組合等)による供給体が、疾病予防や介護予防、また医療福祉分野の人材確保と継続性等、本来事業以外の社会的価値を生み出していることを明らかにした。その背景として、社会的企業が提供する福祉や医療サービスの生産過程には、利用者と専門職によるサービスの Co-Production(共同生産)の機能が存在していることを理論的に説明している。介護、医療サービス供給体としての社会的企業は1)働き手にやりがいをもたらし、2)利用者のエンパワメントを促し、3)複数の社会的価値の創造に貢献している。

●「北欧諸国と日本の高齢者介護比較研究(NORDCARE 調査)」
2004年に高齢者介護研究者 M.Szebehely(ストックホルム大学教授)を研究代表にスウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フィンランドの研究者らが実施した NORDCARE 調査プロジェクトは、カナダ、オーストラリア、ドイツ、日本が加わり、高齢者介護研究の領域での国際比較研究として注目されてきた。自由裁量が大きい北欧諸国の介護職に比べ、規制が多い日本の介護職の特徴を明らかにし、また補助器具を使わない日本の施設では、高い割合で介護職が腰痛に苦しんでいる過酷な現状を明らかにした。

●「認知症ケアとウェルフェア・テクノロジーに関する研究」

北欧諸国ではデジタル・ホームヘルプをはじめ、高齢者介護に積極的にテクノロジーを導入している。認知症高齢者の生活の質の向上をはかるためのコミュニケーションロボットの活用について実証研究を行い、ロボットが介入することで会話が弾むケース、その光景をみた介護職員が元気づけられるケースがみられる等、その効果を明らかにした。

●「介護保険制度と「地域包括ケアシステム」の構築に関する研究」
国際比較研究を基盤に、日本国内では北摂地域、島根県隠岐諸島等で高齢者介護や住民参加と地域共生社会づくりに関するフィールドワークを行い、定期的に「NHK 社会福祉セミナー」(NHK ラジオ第2放送)、放送大学 BS 放送で最新情報を発信している。

●OUマスタープラン実現加速事業(活性化A)「社学共創によるWellbeingでInclusiveなキャンパスづくりの全学展開に向けた試行」(略称:人科DE&Iプロジェクト)
研究室では2024-2026年の間、人科DE&Iプロジェクトに取り組んでいます。本プロジェクトは、Diversity(多様性)、Equity(公正性)、Inclusion(包摂性)を実装するキャンパスをつくり、本事業は必要な時に、必要とする人が利用できる多様な支援を整備し、学生、職員、教員の一人一人が力を発揮できるキャンパスを目指すものです。そのなかの一つのとりくみに、「DE&Iカフェ」があります。北摂地域でベーカリーを営む障がい者団体の皆様のお力を借りて、毎月1回ずつ、吹田キャンパス(人間科学研究科・インターナショナルカフェ/工学研究科・国際交流推進センター)、豊中キャンパス(全学共通教育機構・ダイセルスタジオ)でパンの販売をしています。おいしいパンとコーヒーをきっかけに新しい出会いが始まっています。写真はスウェーデンのリンネ大学の「カフェ・トゥーバン」です。ここでは障がいのある若者がサンドイッチやサラダ、飲み物を提供しており、ランチには学生や職員でいっぱいになります。大阪大学のキャンパスにもこのような常設のユニバーサル・カフェができることを願いつつ、実践と研究を続けています。詳しくは「人科DE&Iプロジェクト」ホームページをご覧ください。
https://ouhusdei.hus.osaka-u.ac.jp

(写真1)リンネ大学キャンパスにある「カフェ・トゥーパン」(スウェーデン)
(写真2)全教・ダイセルスタジオ(豊中キャンパス)DE&Iカフェの様子

研究の意義と将来展望

今日の福祉社会では、地域住民の参加や利用者・当事者参加のあり方、ボランティアの役割も重要で、専門職のがんばりだけでは、質の高い福祉サービスの展開は期待できません。高齢化、雇用の流動化、家族の多様化といった社会的変化から生まれる新たな生活ニーズとリスクに対して日本や世界がどう対応しているかを比較検討しながら、現場の声に耳を傾け、理論的、実証的な研究に裏付けられた問題提起とその解決に貢献できる政策提言を目指しています。また人材不足が深刻化するなかで、要介護者、特に認知症高齢者の生活の質を高めるウェルフェアテクノロジーや介護機器の研究も行っています。

1)デイサービスでランチタイム(スウェーデン)
2)歩行器で自力で歩く(スウェーデン)
3)ひとりひとりに合わせた車いす(ドイツ)
4)家庭的な介護付き住宅(スウェーデン)

担当研究者

教授 斉藤 弥生 (人間科学研究科 共生学系コミュニティ学講座 「福祉と人間学」研究室)

キーワード

高齢者介護/社会保障/地域福祉/認知症ケア/コ・プロダクション/北欧モデル/国際比較研究(北欧諸国、ドイツ、韓国、台湾)

応用分野

社会福祉学、行政学、社会政策、高齢者介護、北欧モデル、福祉とボランティア

参考URL

https://welfare.hus.osaka-u.ac.jp/index.html
https://ouhusdei.hus.osaka-u.ac.jp
https://researchmap.jp/read0042895

※本内容は大阪大学共創機構 研究シーズ集2025(未来社会共創を目指す)より抜粋・加筆修正したものです。