研究 (Research)
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多文化多言語の子どものための包括的教育・評価に関する研究 (Comprehensive study on education and assessment for culturally linguistically diverse children)
准教授 櫻井 千穂 (人文学研究科 日本学専攻) SAKURAI Chiho (Graduate School of Humanities)
研究の概要
本 研 究 は、多 文 化 多 言 語 の 子 ど も(Culturally Linguistically Diverse Children; CLD 児)の言語教育と評価を対象としている。現行の学校教育システムは、CLD 児の多様な言語背景に十分対応できておらず、これが言語的・教育的な課題を生じさせている。こうした課題を解明し、CLD 児の学びを支える効果的な教育環境の構築を目指している。これまでに、CLD 児の複数言語能力の発達に関する基礎研究を行い、学校との協働を通じて複数言語の教育実践を進め、実態に基づく効果的な教育支援策を提案してきた。その成果は、文部科学省の「対話型アセスメント DLA(Dialogic Language Assessment)」(2014)の開発につながり、さらに同省の委託事業の一環として2025年に新たな複数言語の包括的評価モデルを構築した。
研究の背景と結果
学校や社会では日本語、家庭では異なる言語を使う環境で育つ CLD児の数は年々増加しているが、現行の学校教育システムは CLD 児の豊かな言語背景を十分に活かせておらず、特に教科学習言語能力(Academic Language Proficiency)の獲得に課題がある。日本生まれの中国ルーツ児童が多数在籍する学校区で実施した読書力アセスメントの結果、9割の CLD 児が日本語と母語の両方で年齢相応の読書力を獲得できていないことが判明し、アイデンティティの揺れといった課題も浮き彫りとなった。また、南米ルーツの児童生徒を対象とした調査では、日本語とスペイン語の会話力・読書力に認知的な相関が見られ、複数言語を活用した教育の有効性が示唆された。
こうした課題に対応するため、CLD 児のすべての言語レパートリーを活用するトランスランゲージング教育論を基盤とし、大阪と愛知の小中高校との連携を通じて実践実証研究を進めてきた。具体的には、DLA(Dialogic Language Assessment)を用いて CLD 児の二言語能力を評価し、個別のステージに応じた教育実践を行った。在籍学級と取り出し授業を連携させた内容と言語の統合学習、プロジェクト型の母語・継承語学習、二言語の段階的リテラシー(読み書き)学習を実践し、児童生徒の言語能力や学力の変化を縦断的に追跡しつつ、授業談話分析等を通じてその効果を検証した。
その結果、ほとんどの児童生徒に二言語での読書力や学力の向上が見られ、アイデンティティへのプラスの作用も確認された。また、日本語至上主義の学校現場にトランスランゲージング理論を導入することで、教師の意識変容が促され、CLD 児の持つ言語資源を尊重する空気が醸成された。2023年度、2024年度に実施された文部科学省委託「日本語能力評価方法の改善のための調査研究事業」では、これまでの研究成果を基に、評価法開発の部門リーダーとして複数言語の包括的評価モデルを構築した。その後も、全国の教員研修を通じて普及活動に力を注いでいる。
研究の意義と将来展望
本研究の意義は、CLD児の多様な言語背景を学びの強みに変える教育支援モデルを構築する点にある。特に、個々の言語資源を活用するトランスランゲージングを取り入れた教育方法は、従来の日本語のみに依存した教育環境を超えて、新たな学習の可能性を切り開く。また、これまでの文部科学省委託事業で得られた成果を基に、評価方法の精緻化や支援策の多様化を進めている。将来的には、本学を母体として全国的なネットワークを構築し、大学、学校、地域社会、家庭の連携を強化することで、CLD児が社会の中で自らの能力を発揮し、将来の選択肢を広げられる持続可能な支援体制を確立したい。


(丹波篠山市立学校教諭 高見成幸氏の「内容と言語の統合学習」の授業)

担当研究者
准教授 櫻井 千穂 (人文学研究科 日本学専攻)
キーワード
多文化多言語の子ども/多言語教育/言語能力評価/トランスランゲージング
応用分野
教育、子ども、言語発達
