研究 (Research)
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R-Spondin3/LGR4は脳梗塞後の炎症制御および神経突起伸張を促進する新規シグナルである (R-spondin 3/LGR4)
寄附講座教授 島村 宗尚 (医学系研究科 遺伝子幹細胞再生治療学寄附講座/神経内科学) SHIMAMURA Munehisa (Graduate School of Medicine)
研究の概要
脳梗塞の既存の治療法として、血栓を溶解する治療法(t-PA)や血栓を除去する血管内治療、脳梗塞後に生じる活性酸素の作用を抑制する治療薬(エダラボン)があります。本研究では、これらの治療法とは異なるメカニズムに基づいた新規の治療薬の開発につながる可能性を見いだしました。脳梗塞後の神経機能障害の回復には、脳において活性化されたミクログリア・マクロファージからの過剰な炎症による神経細胞死の抑制と、神経回路の再構築のための神経突起の伸長を促進させることが必要とされています。我々は、分泌蛋白である RSPO3が、ミクログリア・マクロファージ・神経細胞の受容体 LGR4に結合することにより、炎症を介した神経細胞死を抑制するとともに神経突起の伸長を促進し、脳梗塞後の神経機能障害を回復する新規分子であることを解明しました。
研究の背景と結果
脳梗塞は認知症に次いで介護が必要となる原因疾患であることから、脳梗塞の悪化を防ぎ神経機能障害を回復できる治療法の開発が望まれています。脳梗塞後の炎症はそのような脳梗塞の悪化を促進するものであることから、炎症を制御することは脳梗塞の悪化を防ぐために重要です。また、神経機能障害の回復には残存した神経回路の再構築が必要であり、そのためには神経突起の伸長を促進させることが必要です。
RSPO3は分泌型糖タンパク質ファミリー(RSPO1-4)の一つであり、ロイシンリッチリピート含有 G タンパク質共役型受容体(LGR)4/5/6複合体を介して Wnt/ β – カテニン情報伝達経路を増強します。LGR 4/5/6受容体は幹細胞ニッチに発現し、腸上皮の再生やがんの進展に寄与することが広く研究されてきましたが、近年、敗血症性肺損傷において LGR4が肺のマクロファージに発現し、RSPO3と LGR4が結合することによりマクロファージを介した炎症を抑制する作用もあることが報告されました。Wnt/ βカテニンシグナルには神経突起伸長や神経保護作用があることことから我々は、RSPO3/LGR4シグナルには脳梗塞後の炎症制御、神経突起の伸長を促進する可能性があることを想定しました。
本研究では、脳梗塞マウスにおいてミクログリア・マクロファージ、神経細胞に受容体 LGR4が発現し、血管内皮細胞から RSPO3が発現することを見いだしました。RSPO3を脳梗塞1日目から脳室内に投与することにより、神経機能障害が改善し、炎症性サイトカインの発現が抑制される一方で、神経突起伸長マーカーである GAP43の発現が増加しました。RSPO3は、TLR2、TLR4、TLR9を介したミクログリアからの炎症性サイトカインの発現を抑制して神経細胞死を抑制するとともに、神経細胞においては神経突起の伸長を促進させることを発見しました。以上のことから、RSPO3/LGR4シグナルが、脳梗塞後の炎症を制御するとともに神経突起の伸長を促進させることにより、脳梗塞後の神経機能障害を改善することができる新たな分子機構であることを明らかにしました。
研究の意義と将来展望
既知の分子をターゲットにした脳梗塞後の炎症制御ではいまだ十分な治療効果を得られていない現状において、今回のメカニズムの発見は、新 規 の 治 療 コ ン セ プ ト に つ な が る も の と 考 え ら れ ま す。ま た、RSPO3/LGR4シグナルはミクログリアからの炎症性サイトカインの発現抑制と神経突起の伸長を促進させる両方の作用を有するものであり、脳梗塞における有望な治療薬のターゲットになる可能性があると考えられます。

担当研究者
寄附講座教授 島村 宗尚 (医学系研究科 遺伝子幹細胞再生治療学寄附講座/神経内科学)
キーワード
脳梗塞/炎症/神経突起/R-spondin
応用分野
医療、創薬
