研究 (Research)
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ARDSにおける個別化換気戦略への挑戦 (Personalized ventilatory strategy for patients with acute respiratory distress syndrome)
助教 妙中 浩紀、教授 吉田 健史 (医学系研究科 生体統御医学講座 麻酔集中治療医学教室) TAENAKA Hiroki, YOSHIDA Takeshi (Graduate School of Medicine)
研究の概要
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は、原因が多岐にわたり、生物学的、生理学的、形態学的に不均一な疾患である。この不均一性により、従来の画一的な治療の効果が限定的であり、個別化治療へのシフトが求められている。
当教室では、肺生理学的観点から、ARDS 患者において肺傷害を悪化させる機序の解明に取り組んできた。これまでの研究で、①リクルータビリティ(圧力に対する肺の反応性、論文1)、②呼吸努力(自発呼吸の強さや患者と人工呼吸器の不同調、論文2)、③ Lung stress(肺そのものにかかる圧力)が肺傷害や予後の悪化に関連し、不均一性をもたらす重要な因子であることを明らかにした。こうした因子を切り口に、不均一な ARDS 患者集団を均一な集団に分類し、個別化換気戦略の構築に取り組んでいる。また、予定手術後の ICU 帰室患者においても、肺内換気分布の不均一性と患者予後に関連性があることを報告し(論文3)、術後管理への応用可能性も検討している。
研究の背景と結果
ARDS の死亡率は依然として40% と高い水準にある。これまで数多くの臨床試験が実施されてきたが、死亡率を低下させた治療法はほとんどない。その主な理由として、ARDS は原因が多岐にわたり、生物学的、生理学的、形態学的に不均一な疾患であることが挙げられる。この不均一性が治療の効果を曖昧にし、画一的な治療では十分な成果が得られない要因となっている。当教室では肺生理学的観点から、肺傷害を悪化させ不均一性をもたらす因子を解明し、それらを切り口にARDS の個別化治療に取り組んでいる(図1):
①リクルータビリティ近年、肺のリクルータビリティがある患者を特定するための簡便なベッドサイドでの技術として、Recruitment-to-inflation ratio(R/I 比)が開発された。我々はCOVID19関連ARDS患者においてR/I比を測定し、リクルータビリティが患者ごとに大きく異なることを明らかにした(論文1)。また、R/I 比を基にした個別化換気戦略が肺傷害を軽減する可能性を示した。
②呼吸努力ARDS の呼吸管理において患者の呼吸努力を温存することが従来の常識であったが、呼吸努力が強い場合、肺内での空気移動(pendelluft現象)を引き起こし、肺傷害を悪化させることを発見した。また、高い PEEP を付加することや体位を変える(腹臥位管理)ことで呼吸努力を軽減し、肺保護につながる可能性を示した。さらに、患者と人工呼吸器の不同調が肺傷害や横隔膜傷害を悪化させることを前臨床モデルで証明した(論文2)。これらの知見は、重症 ARDS 患者において、強すぎず弱すぎない最適な呼吸努力を温存することが予後改善に寄与する理論的根拠となっている。
③ Lung stress食道内圧を計測することで肺そのものにかかる圧(lung stress)を定量化し、高い lung stress が肺傷害につながることを示した。また、胸部 CT データと食道内圧から、従来不可能であった全肺野の lung stress(肺傷害リスク)を可視化・定量化する手法を開発した(図2)。また、術後人工呼吸を要する患者を対象に電気インピーダンストモグラフィ(EIT)で肺内換気分布を観察した結果、換気分布が不均一な患者では予後が悪いことが明らかとなり(論文3)、術後管理においても個別化換気戦略の有用性が示唆されている。


研究の意義と将来展望
肺生理学的視点に基づく個別化換気戦略の導入により、ARDS患者の予後改善が期待される。また個別化換気戦略を基盤とした治療体系の構築を通じ、より多くの患者に質の高い医療を届けることを目指す。
担当研究者
助教 妙中 浩紀、教授 吉田 健史 (医学系研究科 生体統御医学講座 麻酔集中治療医学教室)
キーワード
急性呼吸窮迫症候群/個別化換気戦略/肺リクルータビリティ/呼吸努力/ラングストレス
応用分野
医療・ヘルスケア
参考URL
https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/anes/research1.html
https://researchmap.jp/hiroki.taenaka
https://researchmap.jp/t_yoshida
